惚れた弱み
「イザヤ、まだかよ。」
招きたくもない客である平和島静雄は臨也が出しっぱなしにしていたゲームで遊んでいる。
「ちょっと待っててよ。今できるからさ。」
作っていたのは明日の朝食用にと材料を買っておいた手作りベーグルサンド、あと缶詰がたまたまあったから温めるだけのコーンスープ、それらをトレイに乗せてリビングまで行くといつものバーテン服から臨也の家に無理矢理置いていったお泊まり道具のスエットに着替えて相変わらず大画面のテレビでゲームに興じている。
「シズちゃんできたよ。それと、コントローラー壊さないでね。」
ローテーブルにトレイを置き自分もスープだけはマグにいれてソファに座ると静雄のプレイ画面を見つめる。
こういう光景は何度目になるだろうか。まずそれより静雄のお泊まり道具を置くことを許した時点でこうることは予測される事態であったのではなかろうか。そもそも互いに思い合うようにならなければこの光景は生まれなかったはずだ。
「うまいな。これ。」
ゲームをする傍らベーグルサンドを頬張る静雄にどうもと気のない返事を返すと理不尽な恋人はさらなる理不尽を告げてくる。
「明日の朝は和食がいい。」
臨也はこみあげてくるなにかを押さえ込み
「わかったよ。シズちゃん。」
米をとぐために台所に向かう。
なぜこうまでかいがいしく彼の要求に応えてしまうのだろうか。そう思いつつ朝食のメニューを冷蔵庫の中と相談もする。
「答えはさ。わかりきってるんだよ。」
そうどんなに理屈では嫌っていようと感情はいうことを聞かない。
「惚れた弱み、かな。」
臨也の作った料理を残さず食べる静雄の様子を思い浮かべながら炊飯器のスイッチを入れた。