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竜を憂う、貴方を愛う

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「Hey,どうしたよ忍。調子でも悪いか?」
「そんなことないよ」
 
 くつと笑い奥州の王は自室で胡坐を掻きながら月夜を肴に酒を飲む。
仮にも他国の忍の前だというのに無防備すぎる。今もこうして忍相手に酒の晩酌をさせているほどで。
喉を鳴らしながら飲み進めていく姿すら様になるから不思議だ。
酒が入っていても、相手の気配が常と違うことを微々たる差で気づいてしまうのも最早さすがとしか言いようがない。
 気づかれないように小さく溜息をついて差し出された杯に酒を注ぎ足した。
ほろほろと酒の満たされた杯を口元に運ぶ政宗と視線が合う。独眼を細めてにやりと笑みをかたどる唇に不覚にも見惚れてしまう。
ぐらつく姿を悟られたくなくて、隣にいる相手の肩にそろりと頭を乗せる。そんなことをされても邪険に扱うどころか喉を鳴らして笑いながら髪をなぜてもらえるくらいには、自分の居場所を許してもらえていると自惚れてもいいのだろうか。

「Ah・・・なんだよ、アンタが甘えてくるなんざ珍しいな」
「そうだね。これが最後かもしれないし?」
「・・・お前」

 す、と音もなく防具をつけたままの手を頬に添えた。
尖った爪で赤らんだ頬をなぞればぴくりと小さく身じろぎする。嫌がることもなくされるがままでありながら、じっと見据えてくる独眼の力強さに自然と口元が緩んでいく。
ああ、いま自分はどんな顔をしているのだろうか。

「ねぇ抱かせてよ」

 でなきゃ俺様、今此処でアンタ殺しちゃうかも

「さす」
「黙って」

 今は、今だけはせめて。政宗のことだけ考えさせて


からん と杯の落ちる乾いた音がやけに響く


言葉を紡ごうとする口に噛み付いて黙らせた。無理やり捻じ込んだ舌は拒絶されることなく絡み付いてくる。
口付けたまま畳の上に組み敷いて、したたかにぶつけたであろう背中の痛みにくぐもった声が微かに漏れる。ぎろりと睨まれてしまったが、痛みすらじきに忘れることになるだろう。
啄ばむ様な口付けを繰り返し、俺らしくもなく只ただ無我夢中でその肌を貪った。





 明日 武田軍と伊達軍の戦が 始まる




-了-