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どんな非日常よりも奇妙な日

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「シズちゃん、」





暑い、夏の日だった。



珍しく喧嘩もせずに、二人そろって屋上で5時間目の授業をサボりながら、何をする事も無くただ話をしていた。
あいつが不意に俺の名前を呼んだのは、珍しくあいつも俺に何か言ってくる事も無かったし、俺も大人しいならいいかとそのまま話しかけずに置いてから十分後の事だった。



名前を呼んで、そうして黙って俺に近付いてきて、あいつは何も言わずにするりと頬を撫でた。
驚きはしたが、行き成りの事だったので抵抗も出来ずにいた。
それに、あいつの頬を撫でてくる手は夏だと言うのにそれに反して冷たくて、不覚にも心地よく感じながらもそれが酷く奇妙でならなかった。



そのまま頬を撫でる手を休める事無くもう一度シズちゃん、と俺の名前を呼び掛けてくる。
その元々の澄み渡った声とは正反対の苦しげな声音にこいつらしくないと思いながらも何故だかそれを口にする事も出来ずにただあいつの成すがままになっていた。
黙々と人の頬を撫で続けていたあいつが静かに話しかけてくる。





「ねえ、もし俺がシズちゃんが好きって言ったらどうする?」



「・・・その仮説は成り立たねえよ、」



「どうして?」




「そりゃあ、お前が俺を好きだ何て思う日はきっと地球がひっくり返ったってねえだろうからな」





俺のその言葉に、酷い言われようだとため息をついてあいつは頬に掛けていた手をゆっくりと外した。
俺はあいつの真意が読めなくて、今まで宙に浮かせたままだった視線を改めて目の前のこいつに戻してみると、口元を三日月の様に吊り上げて笑っていて、それを見たらすごく苛ついた気持ちになった。





「なんだよ」



「んー・・・・いや、改めて君って読めない男だなって思ったんだよ」



「まあ・・・お前に易々と読まれる様な事考えてねえからな」





きっぱりと、そうあいつに宣言してやると一瞬驚いたように目を見開いて、そうしてクスクスと笑い始めた。
何だか馬鹿にされた様な気がして俺は更に苛々した気持ちになったので何が可笑しいんだと問い詰めると笑いを必死に抑えながら、あいつは俺に言った。





「だってさ・・・・ほんっとシズちゃんって訳分かんないよ・・・!」





やっとの思い笑いを抑えてこいつは俺にそう言うと、直にまた声を押し殺してクスクス笑い始めた。
それにむしょうに腹が立ったので、それから5時間目の終わりを告げるチャイムの音を合図に俺はまたいつもの様に校内で楽しそうに逃げ回るあいつをぶっ殺す為に追いかけ回る事にした。






(ああ、それにしても)

(あいつが本当に可笑しそうに笑う姿の方がいつものナイフ片手に笑っている姿よりは好きだ、なんて事を)

(ちょっとでも思ったのは、不本意だから内緒にしておくとしようか)







どんな非日常よりも奇妙な日
(そう、全ては夏のまやかしだと、そう思わざる得ない様な日の事)