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さよならブルー

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(あなたが此処にいたことをなにか形に残しておこう。僕があなたを好きだったことが嘘にならないように)

目が覚めた瞬間に思ったこと。風丸さんの絵を描きたいな。あの青をキャンバスに写したら綺麗だろうなと思いました。思い立った僕はその日のうちに画材屋さんに行って絵の具の一式と大きめのキャンバスを買ってきました。1ヶ月分のおこづかいは飛んだけど全然苦じゃありません。次の日に学校に買った画材を持っていって、風丸さんの教室にモデルを頼みにいきました。

「絵のモデル?」
「はい、お願いします」
「そういうのは俺じゃない方がいいんじゃないのか。豪炎寺とか」
「風丸先輩がいいんです」

風丸さんはモデルをやるのは正直気が進まないようでした。それはそうです。風丸さんは注目されることが好きなひとではありません。それでも僕は頼み続けました。毎朝朝練が終わってから三年の教室へ行き、断られては自分の教室へ戻る。それを七回くらい繰り返したあたりでしょうか。呆れ顔になった風丸さんが渋々モデルをやることを了解してくれました。勿論嬉しかったのですが、その時の風丸さんの顔が疲れているように見えたのは気のせいでしょうか。少し心配です。
その日の放課後、風丸さんを美術室に呼び出しました。いつもは美術部員さんたちで賑わっているこの部屋も、この時期になると活動もないのでしょう。無人の美術室はガランとしていてとても広く感じました。僕は教室の端に寄せてあったイーゼルたててキャンパスを組み上げました。家から持ってきた絵の具を出してみると、なんだかやっと絵を描くという実感が湧いてきました。
暫くして風丸さんがやってきました。風丸さんは遅れてごめん、と僕に手を合わせます。どうやら円堂先輩の宿題提出を手伝わされたようです。大丈夫です、と答えると風丸さんは僕が怒っていないのでほっとしたようでした。

「モデルって一体何をすればいいんだ?」
「そこの椅子に座って楽にしててください。勝手にやりますから」
「わかった」
「…」
「…」
「……しかし宮坂に手話の他にもこんな趣味があるなんて知らなかったよ」
「別に趣味じゃないですよ。絵を描くなんて小学生ぶりですし。美術の成績もいつも2です」
「…悪いな」
「悪いです」

他愛もない話を続けながら僕はひたすら鉛筆を動かしました。動かしているのに、確かに鉛筆を消費しているのに中々下書きは進みませんでした。風丸さんは何も悪くありません。僕が描きやすいように喋る時もあまり動かないでくれてるし、文句などは何一つ言いませんでした。それでも僕は鉛筆で線をひいては消してひいては消してを繰り返し、二人だけの美術室が夕日色に包まれる時間になってもまだキャンバスは真っ白のままでした。僕が思い詰めていると、どれ、見せてみろと風丸さんが椅子から立ち上がります。そして僕のキャンバスを見て不思議そうな顔をしました。

「真っ白だな」
「真っ白です」
「お前なあ」
「すみません…なんだか上手くいかなくて」
「いいよ、別に。普段描いてないんだから最初は感覚が掴めないのは仕方ないさ。今週中に仕上げれば問題ないだろ?」
「はい。今週中には必ず」

風丸さんは優しかったです。何時間も座ってるだけなんて疲れて当たり前の筈なのに、手の動かない僕を励ましてくれました。その日から毎日、風丸さんと僕は放課後の美術室で絵描きとモデルの真似事をしました。ゆっくりと、とてもゆっくりでしたが絵は進んでいきました。こうして、最初の日には真っ白だったキャンバスも、5日目の今日にはしっかり風丸さんの姿が写されています。お世辞にも上手とは言えませんが、自分では結構似ている気がします。
そうですね。そもそも、モデルなんて必要なかったのかもしれません。瞼の裏に焼きついて離れない青。ずっと見てたんですよ。僕があなたの後輩になった瞬間からずっと。

「出来ましたよ」
「やっと完成か。間に合って良かった」
「勝手な我が儘に付き合って下さってありがとうございます」
「いいさ、もうその我が儘も聞けないんだしな。俺も良かったよ、最後に宮坂に何か出来て。絵、見てもいいか」
「…どうぞ」
「へえ、よく描けてるじゃないか。俺、宮坂の前でこんな顔してるんだな。それにしてもこんなに笑ってたかな?」

(一年生?入部希望者だな、部室に案内するよ。着いてきて)
笑ってましたよ。初めて会った時からずっと。あなたは僕に笑いかけてました。一度も忘れたことなんてありません。これからも忘れることはありません。あなたの呪いはこの先も僕を掴んで離さないのです。
ずっと、ずっと。

「…宮坂、ないてるのか」




風が暖かくなってきました。校庭の桜はまだ咲きそうもありません。
明日は卒業式、風丸さんは雷門を卒業します。
作品名:さよならブルー 作家名:三村