ワルツ・1番
ある日楽譜を胸に抱いたエリザベータはローデリヒの元を訪れそうお願いした。
「ピアノですか。えぇかまいませんよ。」
ローデリヒはくすりと笑いながらエリザをピアノ室に案内する。
「ありがとうございます。でも、なんでそんなに笑うんですか?」
首をかしげるエリザにローデリヒは笑いを噛み殺しながら
「失礼、でも以前あなたにピアノを教えようとしたら合わないだのピアノの前に座ってないだのと言われて逃げられてしまったので、どういう風の吹き回しかと。」
「ひ、弾きたい曲があるんです。今度はちゃんと、練習します。」
そう言うのでエリザは顔を赤くしてうつむいてしまったので、ローデリヒはまず自分がピアノの前に座り、エリザをピアノの横に座らせた。
「では楽譜を見せていただけますか? まずはお手本を。」
「はい。」
エリザが差し出した楽譜はショパンのワルツを集めたものだった。
「ショパンですか。で、どの曲を弾きたいのですか?」
パラパラと楽譜をめくりながらローデリヒはエリザに尋ねる。
「どれでも、いいんです。ワルツが弾けたら、それでいいんです。」
エリザの言葉にローデリヒはしばし考え込んだあと、ワルツの1番の頁を開いた。
「これなら有名な曲ですし、弾いていて楽しいと思いますよ。」
そう言ってローデリヒはその曲を弾き出した。エリザはローデリヒが弾き終わるまで黙って聞いていた。
「こんな感じです。じゃぁエリザ楽譜は読めますよね。最初は片手ずつ始めますよ。」
ローデリヒに促されピアノの前に座ったエリザは、ローデリヒに尋ねる。
「私も、ローデリヒさんみたいに弾けるようになりますか?」
「弾けますよ。ちゃんと練習すれば大丈夫です。」
そう言って微笑むローデリヒにつられてエリザもニコニコと笑い。楽譜と向かい合った。
「あー右手がつりそう…。」
今日もエリザはローデリヒの家でその曲を練習している。家の主は用事があるとかでルートヴィッヒと一緒に出かけてしまっているが。
「全然、うまくならないな。」
そう言いながらつっかえつっかえ曲を弾く。
「なぁ坊ちゃん。ピアノヘタになったのか?」
「…ギルベルト!!」
そこにギルベルトがピアノ室に入ってきた。
「なんだ。エリザベータが弾いていたのか。それにしてもへったくそだな。」
ニヨニヨと笑いながらエリザの傍までくると楽譜をのぞき込む。
「うるさいわね。今練習中なのよ。ちゃんと弾けるように、なるわよ。」
横でからかってくるギルベルトを無視してエリザはまたつっかえつっかピアノを弾く。
「お前才能ないんじゃね? つーかピアノなんてローデリヒに弾いてもらえよ。」
エリザの演奏を聞いていたギルベルトが呆れながら呟く。するとエリザはキッとギルベルトをにらみつける。
「…ローデリヒさんに弾いてもらったら意味がないの。」
「どうしてだよ?」
ギルベルトはピアノの横にあった椅子に腰掛け話をうながす。
「何度誘ってもローデリヒさんは舞踏会で踊ってくれないの。ワルツ踊りたかったけど、彼は踊らないでいつも演奏しているわ。」
エリザはパラパラと楽譜をめくりながら呟く。
「踊ってくれないなら、私せめて演奏しているローデリヒさんの気持ちを理解したくて、だから練習しているのよ!! あんたなんか練習の邪魔なんだからどこか行ってよ!!」
そう言ってエリザは楽譜を抱きしめた。
ギルベルトはしばしばつ悪そうにエリザの様子を見つめたのち立ち上がる。
「まっそのなんだ。…………頑張れよ。」
そう言ってギルベルトは部屋を出て行った。
「言われなくたってわかっているわよ。」
エリザはまた楽譜を譜面台に置き、ピアノを弾き始めた。