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ようこそ、ニューワールド

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サンシャイン通り、露西亜寿司、その目の前にはボーリング場がある。他にもビリヤードなどができるのだが、それはこの話には一切関係が無い。
ボーリング場の入り口横には、沢山の自動販売機が並べられている。5台以上、ずらりと。たまに利用している人を見かけるが、大半が目の前のパチンコ屋から出てきた客かいかにも工事現場から来ました、といった格好をしたガテン系の男達だ。あくまで主観だけれど。
そんな清く正しく整列している自動販売機に近付く、制服姿の少年。少年の手には空のペットボトルが握られている。その自動販売機で買ったものではないけれど、少年はその場に捨てるような行為はしないのでゴミ箱に捨てようとしていた。少年の背後では同じ制服を着た同じく少年が道行く女性に声を掛けている。池袋ではよくある光景だ。
そして、これも。

「よし……ん?」

ペットボトルをゴミ箱に入れ背を向けようとした少年、竜ヶ峰帝人の耳に何か音楽のようなものが聞こえた。目の前には自動販売機とゴミ箱。帝人は最初、自動販売機から流れてきたのか、と思った。けれどよく聞いてみると、それは赤い自動販売機の、その下から聞こえてくる。
帝人はそろりと近付いて、自動販売機の周囲を見たが音の元となっているであろう物体は見当たらない。そうなると最後の可能性としては、下だ。帝人はその場に伏せると目を凝らしてじっと自動販売機の下を見た。すると、何やら光を放っている物があり、音もそこから流れている事が解った。
予想が正しければ、きっと。そう考えながら帝人は手を伸ばしてそれを掴んだ。それ程遠くまで入り込んでいなかったのが幸いして帝人でも楽々取ることができた。そうして薄暗い場所から出てきたそれを見て、帝人は少し困ったように眉を下げた。音はもう鳴ってはいなかった。

携帯電話。今は持っていない人の方が珍しいと言われる電子機器だ。もちろん帝人も持っている。そんなものが何故自動販売機の下に、と考えて3パターンを予想した。
1、本人が落としてしまった。
2、本人が故意に落とした。
3、第三者が故意に落とした。
帝人としては1が望ましいが、2か3であればちょっと面倒な事に巻き込まれそうな気がした。ここは大人しく交番へ届けた方が賢明だろう、という結論に至った所で。手の中の携帯電話が再び電子的な音を鳴らし始めた。
咄嗟に二つ折りになっているそれを開くと、そこには090から始まる番号と「トムさん」という表示が出ていた。この「トムさん」という人物が何者かは解らないけれど電話帳に入っているのだからこの携帯電話の持ち主と知り合いである事は確かだ。
帝人は少し悩んだ。簡単なことだ、この電話は無視してこのまま交番へ届けてしまえばいい。けれど、何か予感のようなものも感じていた。この電話の向こう側には、きっと、自分の知らない世界があるのだという予感を。
そして、帝人は迷いながら通話ボタンを押した。

「……はい」

『……え、っと……誰かな?』

電話の向こう側の声は男だった。少し低めのそれに大人の人だろうかと考えた。

「あ、えっと、この携帯が落ちてて、それで、拾った者……デス」

『ああ!良かった!探してたんだよ、それ』

「はあ」

『よかったーありがとな!拾ってくれたついでで悪いんだけど、今すぐ持ち主行かせるから待っててくれないか?』

どうやら電話の向こうの男は持ち主ではないようだ。帝人は断るのも悪い気がして、解りました、と返すと今居る場所を伝え男は5分くらいで着くから、と言った。
それから良ければ名前も教えてほしいと言われ、竜ヶ峰です、と言うと男は少しの沈黙の後に困ったような声を上げた。こちらが名乗ったのだから普通は相手も教えるものだろう。だが、男はそれを伝えるのを躊躇しているようだった。流石に気を使いたくなる。

「あの、別に偽名でもいいですよ、気にしませんし」

『いや、そんなの会えば意味無いからなぁ……あー、まあ、先に聞いたほうが早いか』

「?」

『その携帯の持ち主、平和島静雄なんだけど』

帝人は思わず息を呑んだ。池袋で知らない者は居ないと言っていいほどの有名人。最強の男、平和島静雄。今自分が手にしているそれの持ち主なのだと知り、帝人は文字通り固まった。つまり相手が言いたいのは、持ち主が平和島静雄で、今から自分の元にそれを取りに来るが大丈夫か、という事らしい。
沈黙はどれくらいだっただろうか。帝人の脳内は色々最悪なパターンばかり浮かんでは消えた。絶対に関わってはいけないと言われている人物に関わるという事。だが、帝人は以前目の前で平和島静雄を見た事がある。折原臨也と一緒に居た時だ。

「……あの、大丈夫です、多分」

『そう?』

「別に、怒ったりしないですよね……?」

『普通にしてればな』

じゃあちょっと待っててくれ、と言い電話は切れた。ふと、ある日見かけた平和島静雄を思い出す。彼の隣にはドレッドヘアーの男が居た。
帝人は携帯を閉じると、まるで宝物のように両手でしっかりと包み込んだ。この先に、非日常がある。ざわめく様な予感に胸を高鳴らせながら友人に今日は一緒に帰れない旨を伝えるべく歩き出した。

まだ知らぬ未来の話。
顔を合わせ、お互い名乗ると、青年が少年の事を知っていたという事。
それを友人の運び屋から聞いたという事。
お礼にと目の前の寿司屋で青年は少年に奢り、帰り際には連絡先の交換もしたという事。
まだ知らぬ、池袋の日常。





作品名:ようこそ、ニューワールド 作家名:南井