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Second to None 前編

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第3話


「アルフレッドさん」

アルフレッドさんが居なくなって気づいたこと。それはいつのまにか私の世界の中心であったこと。

「アルフレッドさん」

アルフレッドさんが居なくなって気づいたこと、ふたつめ。声が出るようになったということ。

「せっかくお喋りできるようになったのに」

アルフレッドさんが居なくなって気づいたこと、みっつめ。私は彼を何も知らないということ。

「こんなプレゼントなら、要らなかった」

アルフレッドさんが居なくなって気づいたこと、よっつめ。ひとりはさみしい。


***


「おい、ちょっと待て。俺にやるだと? …それをな俗に不法投棄って言うんだ!このバカ!て、寝るな!おい、アルフレッド!」
「そんなこと言ったって、作っちゃったんだ」
「後先考えず突っ走るところ、いっつも所長に怒られてたのに全く直ってないんだな」
「…所長か、懐かしいな」
「おい、人のベッドで感傷に浸るな」
「そう言えば、アーサー覚えてる?研究所の隣にあった花屋のこと」
「それが何だ」
「覚えてるのかい?」
「忘れるわけねえだろう、結局まだあいつの遺体見つかってないのに、忘れられるかよ。気持ち悪い。そう言えば、お前が居なくなったのもほぼ同時期だったよな」
「うん、だって犯人俺だから」
「…は?」
「俺が、菊を、さらったんだぞ」

アーサーは思い出していた。アルフレッドは昔からそうだ、研究所に入ってきたときから天才扱いでアーサーの理解の範囲を超える行動を起こすのが得意で。アルフレッドに相談された時、それはいつだってアーサーの手にはおえない状況に悪化している。いつだってアーサーは見守ることしかしてあげられなかった。今回も、同じような予感がする。アーサーはアルフレッドの次の言葉を受け入れられるかどうか、心配でならなかった。そんな時、アルフレッドが口を開く。アーサーはとりあえず黙って全てを聞く覚悟をした。何を聞いても動じない。何を聞いても咎めたりしない。そう心に誓って。

「俺は菊が好きだった。でも始まることすらできなかった。あの日、告白しようと思ったのに、遅かった。その後、菊の遺体を見て思ったんだ。死んでるなんて信じられない顔で、横たわってるのを見て、俺ならどうにかできるんじゃないかって思ったんだ。それがその学問の中でタブーだとしても、俺ならもう一度菊に世界を見せられる」
「お前!本気でそう思ってるのか!どうしてアンドロイドがタブーになったのか忘れたのか!」
「忘れるわけ無いだろ!知ってるよ!命には終わりがあることを忘れないため。わかってる!わかってるけど、菊はまだ明日があった!あれは事故だった!あれは菊の終わりなんかじゃない!」
「だからって、お前、菊をどうしたんだ。菊の遺体を持ち逃げして、お前、何をした!」

アルフレッドが菊に恋をしていたことはわかっていた。だからアルフレッドが居なくなった原因の一つが菊の事故だと、アーサーは勘付いてはいた。けれどアルフレッドが居なくなったことと、菊の遺体が消えたことをアーサーは今まで結び付けたくなかった。けれど先月アルフレッドからの突然のメール。アーサー、俺、アンドロイド作ったぞ。そのメールに何かを感じてはいた、消えた天才エンジニアとその思い人。信じたくは無かった。考えつかないことでもなかった。けれど違うと、アルフレッドはタブーなんておかしくないと、アーサーは言ってほしかった。信じていた。

「アルフレッド、お前、菊に何をした」
「体を、いじった」

底なしの沼に落ちていく感覚を、アーサーは感じた。

「臓器は生ものだから使い物にならなくて、かわりにボディに充電式のバッテリーを埋め込んだ。筋肉も骨もどうにもならなかったから、可動部は全部金属とかで作ってそれを埋め込んだ。全部の部品が出来上がるまで菊は皮膚の腐敗を止める為の俺が作った培養液の中で保存して、部品ができては埋め込んでを繰り返して少しずつ作った。でも、脳だけはいじれなかった。俺を知らない菊は見たくなかったから、本当はそこにコンピュータでも埋め込もうかと思ったけど、できなかった」
「じゃあ、記憶、あるのか?」
「記憶を司る部位の周りにファイアーウォールを仕掛けてある。本当は最初そんなつもりなかったんだけど、もし全部を知っていたら錯乱するかもしれないと気づいたら、封印することが一番だと思った。だから今の菊は何も覚えてない。でも昔の写真を見つけて、俺言っちゃったから、もしかしたら思い出してるかも。脳は生きてるときのそれと全く同じだから、俺にでも完全には制御しきれない」
「まったく、お前がそれだけの技術を持ってなかったらこんなことにはならなかったのに」
「だから、俺はアーサーに頼みがあるんだ」
「嫌だ、断る!」
「これ、菊のファイアーウォールのパスワード」
「…はあ?おい、ちょっと待て、話勝手に進めんなよ!」
「アーサーにしか、頼めないんだ」
「何だよ、お前が作ったんだろ!お前が最後まで面倒見ろよ!」
「時間が無いんだ、俺」
「…おい、冗談はメタボだけにしろよ、アルフレッド」
「俺、死ぬんだ、あと一ヶ月」

神様がいるのなら、とアーサーは思った。

「やっぱり神様っているんだ、それでこれが罰てやつだな」
「アルフレッド!」
「お願いだぞ、アーサー。菊は何も悪くないんだ。俺が全部勝手に」
「嘘だろ!何だよそれ!俺は信じねえぞ!」
「アーサー、ごめん。いっつも俺、振り回してごめん。ごめん、アーサー、菊は悪くないんだ。でも俺はもう傍にいてやれない、頼めるのはアーサーしか居ないんだ、ごめん。アーサー、ごめん」

それからずっと、ごめんとアーサーを繰り返したアルフレッド。アーサーは菊のファイアーウォールのパスワードを握りしめながら一緒に泣くことしか、できなかった。


後編へつづく
作品名:Second to None 前編 作家名:こまり