二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

所有印

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「さとーさん、首のとこ赤いよ? 虫に刺されたの?」
「どこら辺だ? 虫に刺された覚えなんてないが」
「首の下の方だよ。アレルギー? キッチン暑いし汗疹かな?」
「痛くないし痒くもない。まぁ後で確認しておくよ」

 いつにも増して暑い今日、キッチン服の前ボタンを二、三個外して煙草を吸っているところを種島が声を掛けてきた。
 その内容は首筋に赤い点があるというものだ。
 色々と原因の仮説を述べられたものの、そのどれにも心当たりはない。
 虫刺されもアレルギーも湿疹の類も現時点ではないし、痛くも痒くもない。
 
 後で鏡で自分で見てみりゃ判るだろ。
 そう楽観視して種島が行った後も煙草を吸っていると相馬が出勤してきた。
 こいつが来たって事は俺は休憩に入れるな。

「やあ佐藤君、おはよう。外もだけどここも随分と暑いね」
「火を使っているからどうしても暑くなるよ。この服は通気性が悪くてこもるから余計な」
「だからってボタンを外して着崩すのはどうかと思うよ……ん?」
「何だ?」
「え? あ、いや、佐藤君の首のところ。どうしたの?」

 適当に挨拶を交わしていると、相馬も俺の首に興味を持ったようで何事かと訊いてくる。
 種島と言い、相馬と言い、俺の首にそこまでおかしなものがあるのか?

「赤く点が出来ているんだろ? さっき種島にも似たような事を言われたよ。何でもないんだがな」
「痛かったり痒かったりしないの?」
「虫も肌荒れもアレルギーも身に覚えはない」
「へ、へえー……そうなんだ? 本当に何ともない?」
「くどい。それともお前はこれの原因が判るのか?」
「いやー……はは、ね? 鏡で見たらいくら佐藤君でも判るんじゃない? ついでに休憩に行ってきなよ」

 随分と歯切れが悪く要領を得ない相馬に苛立ちながらも、俺は言われた通り自分で確認するのが手っ取り早いと休憩ついでに確認する事にした。



*****************************



「潤君も休憩?」
「八千代もか」
「うん、ぽぷらちゃんが来たから」
「そうか。俺も相馬が来たからな」

 休憩室に行くと、八千代も休憩していた。
 種島と俺が話したのが種島が出勤してすぐだったから、休憩時間はほぼ一緒か。

「そうだ八千代。鏡持ってないか?」
「鏡? 姿見ならそこにあるけど?」
「ああ。ありがとう」

 こういった客相手の商売だと更衣室だとか休憩室に身だしなみを整える為の姿見があったりするんだよな。
 キッチン担当は大抵スルーしてしまうが、フロア担当だと一回立ち止まって見たりしているのだろうか?

 姿見の前に立ち、服を捲り、首を突き出す。
 普段ならボタンを掛けている為に隠れて見えない、首元の鎖骨の上辺りにそれは確認できた。
 赤と言うよりは薄紅色の何らかの痕が。
 そして俺は、これがどういう時に、どうやって出来るかも知っている。
 しかし……身に覚えがない。
 昨日の記憶を総動員させてみても、これが出来るような原因は見つからない。
 だがこれはどう見ても……


「どうしたの潤君? ……あら? それ、痕になっちゃったの?」
「ど、ういうこと、だ?」
「だから痕になっちゃったの? って」
「八千代、お前が……?」
「なっちゃったと言うか、するつもりでつけたんだけど……」

 お前がやったのかよ……しかし本当に身に覚えがないんだが……
 
 そうか、だから相馬は判ったのか。
 後でフライパンだな。サービスでよく熱しておこう。

「するつもりでって……いつ、どういう理由でだ?」
「昨日、髪を乾かした後で潤君が服も着ずに寝ちゃった時に。理由は……潤君があんな格好で早く寝ちゃったから?」
「そんな理由で……」
「案外、気付かないものなのね」

 何事もないように言う、相変わらずの天然っぷりに頭が痛くなってきた。
 通りで朝起きた時に半裸の俺にくっついて寝てたわけだ……謎が全て解けたよ。
 謎が解けて……

 今度はこのピヨピヨ頭に対して嗜虐心が芽生え始めた。


 雰囲気を察したのか若干怯えている八千代に俺は続ける。

「ま、出来たものはしようがない」
「え、えぇ……」

 そう、しようがない。
 だが、このまま終わるのは面白くない。

「でもな八千代。俺はこれを種島と相馬に見られたんだ。種島は判ってなかったみたいだが、相馬は判ってただろうな」
「……」

 死なば諸共、というほど物騒なものじゃないが。
 俺と同じく恥ずかしい思いをしてもらおうか。
 フロアの制服は首が見えやすいから簡単だろう。

「八千代。もうわかるだろ?」
「んっ……」

 壁際にまで追い込み上から覆い被さるように耳元で囁くと、八千代は僅かに声を上げて身じろいだ。
 
 その声
 その顔。
 その表情。
 その仕種。
 その全てが俺を焚きつけるんだよ八千代。


「無言は肯定だな」

 しゅ、しゅるりとボタンホールに掛かっているリボンを解くと、汚れのない無垢な白色の喉と鎖骨の大部分が露わになる。
 前から思っていたがこの部分ってすげえな。何でここだけこんなに開いてるんだ?
 ボタンを外す手間が省けるから良いか。

「あの、じゅんくん……」
「どうした八千代?」


 さて、休憩時間は後どれくらい残っているんだ?
 痕をつけるだけと思っていたが、それは俺の検討違いだったようだ。
 どうやら八千代は生殺しの他に、天然仕立ての男殺しまで備わっているらしい。
 この顔でここまで言われて痕をつけるだけで止まれる奴がいたら見てみたいよ。
 


「八千代?」
「じゅんくん……やさしく、ね……?」



 それは不安と期待が入り混じった、八千代の本当の素顔だったのかも知れない。

作品名:所有印 作家名:ひさと翼