寂しがり屋
佐久間は美人だ。
すっと通った鼻、長い睫毛に縫いとられた橙色の瞳、そして完熟の果実にもにた唇。
カフェオレの肌にほんとり赤みを帯びたそれはどこか蠱惑的ですらある。
「何見てんだよ?」
機嫌悪そうに佐久間は言った。
眉間にしわを寄せ、侮蔑のような眼差しを向ける。
「なんでもない」
「ずーっと俺のこと見てただろ」
ぶすっと不機嫌を前面に押し出して佐久間は
辺見に近づく。
「目があっただけだ。てか、絡むなよ」
「なんだよ、お前が俺にちょっかいかけたんだろ」
佐久間は腕を伸ばして辺見の首に回す。
辺見の背丈の分だけ、自然と見上げる形になった。
「いい加減にしろ。寂しいからって俺につっかかるな」
その手を軽く払いのけて、佐久間の痛いところを突くと、
びっくりした表情で固まった。
佐久間は極度の寂しがり屋だ。高すぎるプライドが邪魔して表に出すことはめったにないが、適度にかまってやらないと拗ねていじけてしまう。
それは昔馴染みの辺見だけが知るシークレットで、普段、"冷徹な参謀"の顔しかしらない奴らにしてみれば驚天動地の事実だろう。
「別にさびしくなんかない」
佐久間は拗ねたように唇を尖らせる。
「お前の癖だよ。寂しくなったら俺に絡んでくるんだ」
辺見はポンポンと佐久間の頭をはたいた。
佐久間はそれを拒絶もせずに、ぶすっとした表情のまま、言葉を吐く。
「お前なんか嫌いだ、バーカ」
「はいはい」
佐久間の悪口をさらっと流して、辺見は扉をくぐる。
教室内に残ったままの佐久間は、辺見の後ろ姿に声を投げた。
「…辺見」
「なんだよ」
「・・・・バーカ!!!!」
それが精いっぱいの照れ隠しってことは、よくわかった。
真っ赤になった佐久間の顔を見て、辺見は笑いがこみあげてくる。
昔と変わらないその仕草に、嬉しくなった。