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青春の、

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時々、小春の目を見るのが怖くなる事がある。
全てを見透かすような光と、何にも受け入れることの無いような影の混在した、そんな目をする事があるのだ。観察し理解し、それを真似るのを得意とする自分にとって、理解の範疇を超えるものは純粋に怖いと思う。普段は一心同体少女隊修行やら四天宝寺華月でのコントライブやら二人での行動が多い分、小春の知らない、分かっていない部分は理解したいと思わないことはない。でも同時に、小春は自分なんかでは到底理解の及ばない思考回路をしているんじゃないかとも思う。彼は所謂“天才”と呼ばれる人間だから。
だから、そんな目をした小春には声をかけづらいと感じてしまう。
今日も声をかけられずに部室まで一人で来て、こうして一人寂しく着替えをしているわけだ。

「あれ、ユウジ今日一人なん?」

夏も近く、空気に湿気の含まれてきた季節、重たい空気を一掃するかのように、一際清涼感のあるその声を発しながら部長である白石が入ってきた。

「んー?まぁ、偶にはなぁ。」
「…小春と、何かあったん?」

彼は、聡い。
流すような、だけど違和感を感じさせないように取り繕うようにして口から出た台詞の違和感も、すぐに見抜いてしまった。もっとも、普段から小春小春と連呼している自分が“偶には”なんて理由で小春の傍から離れること自体、何かあったのかと詮索する理由にはなるのだろうが、彼の訊き方は明らかに何かあったことを分かって訊いている訊き方だ。この聡さがあるからこそこのテニス部の部長をしていられるのだということも、理解している。

「いや…何かあったっちゅーか、俺が勝手にシリアスしてるだけっちゅーか。」

苦笑ごとそうやって返すと、白石は自分のロッカーの前で考え込むような表情をしてみせた。自分が相談を持ちかけたようなものなのに、どこか上の空な思考が男前は何をしても絵になるものだ、なんて全く関係ない方向へと飛躍し始める。そんな中、白石は自分の中で結論を出したようだった。しかし、どうも言いあぐねているようで白石の唇が言葉を求めるように数度、開閉される。そして

「今はとりあえず、そこんとこに触れんでやってくれへんか?」

そう、絞りだしたままに続ける。

「小春って、まぁ、天才…って呼ばれるような奴やん?」
「呼ばれるような奴、やのうて実際天才やろ。」
「うん、せやから考えなあかん事、人一倍多いと思うねん。一個考えるにしても、その裏にある五個とか六個の事見えてまうし、考えてまう。」
「…せやな、結構小春繊細やし。」
「でも、な?小春かて俺らと同い年やん?抱えきれへん事もあるし、そないに色んな事考えとったら、いくら天才や言うてもパンクしてまうんやないかと思うんよ。」
「…うん。」
「やから、小春の抱えきれんもん、ユウジ君ちょこっとだけフォローしてくれへんかな。」
「え、」

そんなことを言うのだとは、思ってもみなかった。
“今は訊かないでやってくれ”なんていうものだから、白石は小春と距離を置いてほしいとでも言うかと思ったのだが。

「小春な、今色々複雑なこと考えてんねん…って言うてもあいつはアレで結構元が複雑なんやけど。だから、今はそこについては訊かんで、今だけちょっと小春のこと助けてくれんかな。」

本当に彼はいい意味でも悪い意味でも部長だ自己犠牲とでも言おうか、部員のことを考えすぎて自分の事は後回しにしがちな、悉く損な性分。

「そんなん、虫が良すぎるとは思わん?」
「ユウジ、」
「今は訊かずに、助けるだけ助けろって、虫が良すぎるんちゃうんか。」
「…せやね、俺もそう」
「でも、」

白石の言葉を遮るように続けると、彼が驚いたような顔でこっちを向くのが分かったが、構わず続ける。

「でも、やったるわ。」
「ユウジ…」
「大体何やねん、訊くなーとか助けろーとか。コンビやったら当たり前やっちゅーねん!それくらい俺でも空気読むわ!相手の考え分からんとダブルスしてるわけないやろ?それこそ何のための一心同体少女隊修行やねん。」

それになんたって、小春のためやし。と締めくくって、軽くなった心の内を見せるように笑うと、白石が安堵したようにおおきに、と呟くのが聴こえた。
結局、小春が何を思ってあんな目をするのか分かったわけじゃない、けれども、それでいいと思える自分が居るのだ。いつか話してくれるのなら、それまで小春の傍に居れば良いだけの話だと思える自分が。何日後か、何ヵ月後か、或いは何年後かも知れない未来を、待ち続ける覚悟ならとうに出来ている。

結局惚れた弱みとは、そういうものなのだ。

作品名:青春の、 作家名:さくやん。