おにぎり日和
小さな口の何倍もある握り飯にかぶりつくだけで口の端が米粒だらけになるし、海苔が垂れ下がって顎にひっつくし、焦って力の加減を間違えれば掌の中で握り飯を潰してしまう。
これだけが幾つになっても上手くならない。
「ほんっと下手糞だよな、おにぎり食うの…」
「う、うるさいっ」
課外実習にと持たされた握り飯は大きかった。お腹を空かせないようにと、おばちゃんの愛情たっぷり特大握り飯。
二口目ですでに久々知は涙目である。
「兵助…鼻のあたまに米粒ついてんだけど…どうやったらそんな事になるの」
ちょい、と雷蔵がつまんで自分の口に運ぶ。
「口の周りは百歩譲って分かるにしてもな、ほっぺたに付きすぎだよお前」
ちょい、と三郎も米粒をつまんで自分の口に運ぶ。
「つうか食ってるより付けてる方が多いよなお前…」
べろ、
握り飯を必死に掴んでいる久々知の手を退かせて、竹谷は口の周りにへばりついていた米粒を一度に舐め取った。
「…竹谷…」
「おう?」
「それは無いわ」
青筋を立てて引いている三郎の隣で「お前らも十分無いけどさ」と勘右衛門が涼しげに言った。
「へえ。勘右衛門って兵助の世話焼いてそうだけど、意外。」
「俺はねー、最初っから無駄な事に時間使わせないからねー。」
そう言うと勘右衛門はひょいと握り飯を取り上げて、一口大より更に小さいサイズを指に取って久々知に差し出した。
「はい、あーん。」
出された飯をひな鳥のように突く久々知に、ろ組の三人は嘆息する。
「お前らの方が、ないわ」