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神経とレモン

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一見大人のようで、あれはたまに子供のようにわがままで頑固である。一途と病気は紙一重だなあ。と溜息をついた。ああ。
ぽしゃん。
白いマグに温かな透明の炭酸。輪切りのレモンを入れると爽やかな匂いがした。

「お前って馬鹿だね」
「コーヒーを頼んだはずだが」
「お前が頼むコーヒーからは胃に良くない香りしかしないからだめ」
ん。と温かいレモネードを手渡した。疲れてるときにはレモンがいいんだ。と適当なことを言って。すると俺は疲れてなんていないさと適当なことを言われた。穏やかに。とても穏やかに。いっそのこと無理のある顔で言われたかった。疲れきってるのを我慢しているのがばればれな、そんな顔で言われたかったよ。
「馬鹿だねお前って」
彼が横たわるベッドの脇を蹴飛ばした。スプリングが僅かに軋んで小さく揺れただけの細やかな衝撃ではどうにも鈍く重い脳には届かないらしい。
「馬鹿」
うつむくと横たわる彼のいくらか痩せた腕が見えた。彼は兄と分断されてからというものまるで奴隷のように働いている。フェリシアーノの心を波立たせたのはそれが彼にとっての無理のない行為として認識されていることだった。
ある時問い詰めた。それはもう言ってやった。おかしい。おかしいと。こっちが必死になって言っているというのに彼はなんとも涼しい顔。
ぽつりと言ったのだ。兄に比べれば。
『じゃあ兄貴がいなかったらお前はどうなっていたんだろうな』
皮肉って言った。それでも彼は穏やかだった。
『俺がいないだけだ』

「馬鹿!」
どす。とまだ自分よりは厚い胸板を拳で叩いた。同時にベッドの縁に突っ伏した。大好きな友人が痩せて倒れてそれでも疲労にも目の前の自分にも気づけずに見えぬ兄の背中を不毛に追っている。そんな現実にフェリシアーノの細い血管からは冷たい血が流れた。くるしかった。
ごろりと寝返りを打ち、彼は少し覚めたレモネードを口にする。甘いレモンの香りがした。
「甘い」
フェリシアーノは顔を上げなかった。ばたばたとベッドの下を蹴っているので若干ベッドが揺れていたが。
「兄と離れてから苦いものもうまいと感じられた。甘いものは眠くなるんだ。どうしてだろうな。苦いものがうまいと思うか?」
「うるさい」
シーツに押し付けた声はくぐもっていたし震えていた。うるさいうるさいうるさい。とベッドを蹴り続けている。
「あれは胃にも何にも悪い飲み物だな。飲んでいるとじくじく染みるんだ。粘膜が埋められていく感触を、俺はうまいと感じていたのかもな。きっと腹に穴が空いていたんだ。寂しかったのかもな」
フェリシアーノはただいらついていた。彼の言いたいことが分かったからだ。
「コーヒーを淹れてくれないか」
がっ。とマグを掴むと飲みかけのレモネードをばしゃんと彼にぶっかけた。
作品名:神経とレモン 作家名:yuzi