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姫と騎士

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実のところ。
リヒテンシュタインを食事にお誘いしたいと思っている国はたくさんある。
淡い小麦色の髪に、新緑の瞳、華奢な体。
丁寧な言葉遣いに優雅な物腰。
そして、可愛らしい微笑み。
まるで御伽噺にでてくるようなお姫様然とした風貌に、視線が奪われないわけがないのである。

しかし、食事に誘うなんてとんでもない。
リヒテンシュタイン自身は「まあ、光栄ですわ。」と微笑みながら気さくに対応してくれるだろうが、まずその彼女と会話することができないのだ。
なぜなら、御伽噺のお姫様には騎士が仕えている、のがセオリーだからだ。


「我輩の妹に近づくな!」

まずはスイス。
彼女の兄であるが所以に鉄壁の守りである。
ちょっとでも声をかけようとしたものなら実弾が飛んでくるのだ。
側にいない時を見計らっているのにもかかわらず、どこからか射撃されるのだから恐ろしいことこの上ない。

「お兄さま。公の場で実弾射撃は危のうございます。」
「問題ない。虫の駆除をしたまでだ。」
「まあ、そんなに大きな虫が?!」
「うむ。リヒテン、危険はどこに潜んでいるかわからないものだ。」
「はい。あの、お兄さま。」
「ん?」
「ありがとうございます。」
「・・・うむ。」


そのスイスとて、外交中など国政に関わっている際にはライフルをぶっ放すことはできない。
やれ鬼のいぬまにと近づけば、そこには新たな鬼が立っているのである。
リヒテンシュタインの後ろに立ち、(リヒテンシュタインに何の用だ?)とでも言いたげに、腕組をしたまま無言でこちらを見下ろしているのはドイツだ。
めげずに彼女に挨拶をすれば、(さっさと立ち去れ!さもないとどうなるか分かっているんだろうな!!)とばかりにギロリと睨んでくる。
武力に訴えるようなことはしないが、あの眼力は恐ろしい。
まさにゲルマン人といった迫力だ。

「あら、あの方もいってしまわれました。」
「どうした?」
「いえ、さきほどから皆様お声をかけてくれるのですが。ご挨拶がすむとすぐに帰ってしまわれるんです。」
「忙しいんだろう。」
「そうでしょうか?わたくしがなにか失礼なことでも・・・」
「気にすることはない。従姉さんが悪いことなどなにもない。」
「ふふふ、ありがとうございます。」
「なんだ、嬉しそうだな。」
「はい、嬉しいのです。ドイツさんから『ねえさん』だなんて呼ばれるのは久しぶりです。」
「!?いや、その、それはだな、」
「まあドイツさん、お顔が真っ赤ですわ!熱でもあるのでは?!」
「な、なんでもない!大丈夫だ!問題ない!」


しかしそのドイツとて忙しい身である。
世界会議ともなれば、ドイツはもちろんスイスも出席しないわけにはいかない。
かつ他の主要国も出席してしまうため、日頃は大国に遠慮して、リヒテンシュタインを遠くからしか眺めることができなかった国々も近寄りやすくなる。
絶好のチャンスなのだが。

「お前誰だ?」

ドスの効いた声と緋色の瞳で睨みつけられれば、震えあがらない国はない。
その生涯を戦闘に捧げ、悲願を達成し消滅したはずの国。
黒い鷲。プロイセンだ。
亡国のはずなのにいまだ実体をとどめ、ドイツの兄として存在している。
名を名乗れば、そうかそうかと愛想良く笑って何も言わないし、何もしてこない。
ただリヒテンシュタインの隣でニヤニヤと笑っているだけだ。
邪魔はしない、と言いたげにこちらを見ている。
まるで試されているような視線に耐えられず、リヒテンシュタインに素早く挨拶だけはしてその場を離れるのが精一杯だ。

「おじ様、あのようなおっしゃりようは相手の方に失礼ですわ。」
「アアン?」
「もう少し丁寧な対応をしなければ、あらぬ誤解をあたえてしまいます。」
「いいんだよオレは。」
「よくありませんわ。」
「いいね。」
「よくありません!」
「おーおー、あんまり怒ると可愛い顔が台無しだぞ?」
「・・・まあ、おじ様ったら!話をそらさないでくださいまし!」
「ハハハッ!」


スイス、ドイツ、プロイセン。
主にこの三国が、騎士よろしくリヒテンシュタインを護っているのだ。
この騎士達を倒さなければ、リヒテンシュタインとの会話はおろか、食事なんて夢のまた夢なのである。
またそこに、もう一人の兄であるオーストリアやハンガリーなどが加わって、更に壁は厚くなっていくのだ。

ちなみに、プライベートでの食事に成功したことがあるのは。
日本とイタリアだけである。

作品名:姫と騎士 作家名:飛ぶ蛙