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飛んで火に入る夏の虫

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ふらりふらりと夜空を舞う。ちかちかと瞬く光が、静雄の網膜を焼いていった。無数の光粒がぱちん、ぱちん、きらり、きらり、近くから遠くから、その身を震わせている様は圧巻であった。静雄はゆっくりと足を踏み出す。一歩、二歩、三歩、その御足を前に。天地が分からないこの場所にも、足の裏を支える地面は存在するらしい。見えない柔らかな布のようなそれを、踏み締める。静雄は大きく両手を広げた。ここで己は自由であった。何にも捕われず、何にも煩わされず、そうして何者でも在らず。その如何に清々しいことか。体が軽い。とん、とん、と飛び上がりくるりと回る。無数の光がきらきらと舞った。静雄は足裏に力を込め、大きく飛躍する。飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。手の平で赤く瞬くそれを叩いた。ぱあん、と小気味の良い音がして、目の前が真っ赤に染まり、また元に戻る。静雄は気を良くして次々と光を破壊していく。赤青黄色、一つとして同じ色のないそれらは静雄を飽きさせなかった。ネオンカラーの瞬きは目に痛いが、薄水色のレンズが静雄の瞳に覆いかぶさり、世界を隔て光を混ぜた。ふんふんと鼻歌を歌いながら、静雄はまるで宇宙のような空間を自由に闊歩する。ここは何処だと聞かれたら、分からないと答えるだろう。しかし何をしているのかと問われたら、答えは一つだ。しかし静雄に話しかける者は誰もいない。それに静雄は機嫌を良くし、ふうわりと宙を舞う。聞いておくれよベイベー、これが俺の子守唄さ。静雄が広げた右腕に光が纏わりつく。痛くも痒くもない、ただ熱かった。この世を創造する熱だ。それを右腕に携え、静雄は光の宇宙に身を委ねた。何度も、何度も、光を破壊し歌を歌う。次々と光りだすそれらに何の心配もいらない。壊れたそばからまた生まれるのだ。だから静雄は躊躇わない。静雄が歩く度にあちこちで色とりどりの光が弾けた。もしこの光景を見た者が居たならばこう言っただろう。あれはまさしく世界の果てであり、始まりであった、と。平和島静雄に溢れんばかりの称賛を。長い間そうしていると、目の前に一つ、真っ赤な光が生まれた。爛々と、この瞳を焼き尽くさんばかりに輝くそれに、静雄は大きく伸びをする。今日はここまでらしい。にやり、と笑って握り潰した。お疲れさん。コンクリートの地面に足を降ろせば、ネオン街に臨也がぽつん、と立っていた。コートのポケットに手を突っ込み、まるで長い間そこにいたかのように。空は明るみ始め、毒々しいまでのネオンも薄れていく。臨也は確信を持った声で静雄に問うた。静雄はその問いに満足げに笑う。夏の一夜であった。

「シズちゃん、何してるの」
「空中飛行さ」



おしまい
作品名:飛んで火に入る夏の虫 作家名:椋鳥