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祭り

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祭りは嫌いだ。
人が多いし騒々しい。
それに、もしもその祭りが池袋で行われていたら。
俺が通るだけで人々は道を開けるだろう。
畏怖にまみれた眼で俺を見ながら。

祭りに行かないか、と誘ってきたのは門田だった。
そのとき近くにいたセルティも一緒に行きたいと言い始めた。
セルティが来る=新羅が来るという方程式が頭に浮かんだ自分を少し笑う。
まあ、間違ってはいないのだが。
『静雄も来るだろう?』
セルティがそう打ち込んだPDAを俺に見せる。
「そう、だな…。」
臨也はどうなんだろうか。
そう考えかけて慌ててそれをかき消した。
いけない。あいつのことを考えてはいけない。

それはちょうど今から一週間前のことだった。
いつものように阿呆面で池袋を闊歩している臨也を見つけた。
そいつの首根っこを掴んで、新宿の方向に思い切り投げ飛ばす、つもりだった。
首根っこを掴むまではうまくいっていた。
問題は、そのあとだ。
「よぉ、臨也くん…元気してたかぁ?」
笑顔でそう問いながら顔を覗き込むと
「し、シズちゃ」
そいつの顔は赤かった。
酔っているとかそんなんじゃなくて。
とにかく赤かったのだ。
不意をつかれた俺はうっかり手を放してしまい、臨也はそのまま逃げてしまった。
あの日から一週間、俺は池袋であいつの姿を見ていない。

気になったからで、別に心配な訳じゃない。
そう自分に言い聞かせながら、臨也の住んでいる建物の前に立つ。
入ろうか入るまいかうろうろしていると黒い何かが目の前に見えた。気がした。
急いだようにそれは隠れてしまったが、間違いなくあれは臨也だ。
臭いが臨也だった。
「おい、いざ」
や、という前に、それは俺に抱きついてきた。
何事かと思って目を瞠ると臨也が弱弱しく笑って「会いたかったぁ」と言った。

話をきくと奴はどうやら風邪で寝込んでいたらしい。
一週間池袋に来れなくて、俺に会えなくて、やっと治ったから今日久々に行こうと思ったら玄関に俺がいて、吃驚して夢かと思って部屋に戻ろうとしたけどやっぱりそれは俺で、気が付いたら抱きついていた。
あいつの話を要約するとこうなる。
つまり、寂しかった、のか…?

素直にそう言わないで、物凄く遠まわしに伝える臨也が可愛くて、愛おしくて。
「臨也、今度―――」

祭りに、行かないか。
作品名:祭り 作家名:89