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ぼくをきらいにならないで

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朝から兵助が口をきいてくれない。


怒らせた、と思った時には遅かった。竹谷は初めて兵助を本気で怒らせてしまった。
何度謝っても振り向いてもらえず、休日を理由に勘右衛門を追い出して長屋に無理矢理居座った。兵助はまるで竹谷など居ないもののように、そっぽを向いて本を呼んでいる。
なんども「ごめん」と言おうとしたけれど、その度に唇は虚しく空回る。

やがて、眉を下げて居座った姿が夕日に照らされた。
このまま一日を終えたくないのはどうやら兵助も同じようで、夕飯の鐘をきっかけにようやく竹谷に視線をくれた。
「…」
(こっち見てくれた)
久々知に近づく。その肌に触れたい。
触れて、この体温を知ってもらいたい。竹谷がどれほど彼が好きか
どれだけ―――
側にいるだけでどれだけこの心が熱くなるか


仲直りがしたい。
「兵助、…いい?」
はじめの時のように伺いをたてた。緊張で語尾が上がるのを必死に押さえて竹谷は拳を握り込む。そうでもなければ情けなく震えてしまいそうだった。
こんなに怖いことなんてない。

(必死じゃないか・・・)

兵助はとっくに竹谷を許していた。
ただ目の前の竹谷があまりにもいっぱいいっぱいで、拗ねたついでに――つい、からかいたくなってしまった。

「…いやだ。」

無表情を作って拒絶すると、伸ばしかけた竹谷の手が空で止まる。
「竹谷」
「…」
「そ、そんな…泣くなよ…」
頬を伝った自分の涙に気づかなかったのか、言われて竹谷は慌てて涙をぬぐった。
「ごめん。嫌じゃない。俺もう怒ってないから、…だから泣かないでくれ」
兵助は初めて竹谷の涙を見た。竹谷は兵助に悲しい表情を見せない。そんな優しい所も大好きなのに、ほんの悪戯心で彼は大好きな人を泣かせてしまった。
「ごめん、ごめんって竹谷。そんな泣かないでくれよ。どうして」

(どう、して…?)

「…わかんねえよ」
自分はこんなに弱い人間だっただろうか。
兵助に拒絶されたと思った瞬間、竹谷の中で積み上げていたのもが、音を立てて崩れていった。

(こいつに拒絶されるなんて耐えられない)

ごめん、ごめんと繰り返しながら兵助抱きしめてくれる。
温かい彼の体温。竹谷はようやく兵助に触れる事が出来た。長い長い一日だった。
作品名:ぼくをきらいにならないで 作家名:さと