ヒャクモノガタリ
「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
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熱い夏の日、一人の生徒のとある一言で全てが始まった。
「夏なんだし、何か怖い話しようよ!!」
「相変わらず、普通な事云いますね」
「普通って言うなあ!」
いつもの風景、本来ならここで終わるはず、だが、
「先生、どうせやるなら、きっちりやりましょう」
千里が挙手をし、云った。
「別にやらなくて良いじゃないですか」
望は千里から目線をそらしながら云った。
「わかった!!先生怖いんでしょー」
調子に乗った奈美が笑いながら云った。
「別に怖くなんかありません!!」
望は必死に云い返す。そんな時だった。
「面白そうじゃないですか。僕も混ぜてくださいよ。」
思わぬ人物の挙手だった。
「久遠君?」
望は思わず本人に聞いてしまった。
「夏なんだし、良いじゃないですか」
准は微笑みながら云った。
「久遠君がいれば、問題無いわね。さぁ、やるからにはきっちりやりましょう。」
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「はぁ、怖かった!!久遠君怖い話もできるんだねー」
奈美は云った。
「ほかにも、すべらない話、恋愛物。何でもできるよ」
准ははにかみながら云った。
「じゃー今度はすべらない話でもやろうよ!あっ!!」
時計を見るとすでに下校時刻を過ぎていた。
「やっば!!早く帰らなきゃ!!先生さようなら!!」
ばたばたと靴音を鳴らしながら生徒達は帰って行った。
「せんせい」
「!?」
望は体をびくっと反応させた。
「吃驚し過ぎですよ、せんせい」
准は笑いながら云った。
「だって、久遠君が、久遠君が…」
よく見ると望の目の周りは真っ赤に腫れ上がり、目からは涙が零れていた。
すると、准は教室の隅で丸くなっている望を抱きしめた。
「くどうくん?」
吃驚しているのか望は片言で云っている。
「先生、可愛い」
「何云ってるんですか!?」
顔は見えないがきっと真っ赤になってるんだろうな、と准は思った。
「先生、今日泊まっても良いですか?」
「何ですか?唐突に」
望は焦りながら聞いた。
「だって先生、今日一人で寝れますか?夜の学校…開かないはずの扉」
「うわあああ!!分かりました分かりました!!泊まっていいです!というより泊まって下さい!!」
望は体を震えさせながら叫んだ。
「わかりました。それじゃ、行きますか」
准は微笑みながら立ち上がり、望の手を引いた。
不意を突かれたのかバランスを崩した望は准の方へと躓いた。
「先生、怖がりすぎですよ」
ほらっ。そういうと准は望へ手を伸ばした。
恐る恐る望は手を伸ばす。
すると、准は望の指に自らの手を絡ませた。
「行きましょうか、先生」
宿直室まですぐそこ。
(この時間がずっと続けばいいのに…我ながら馬鹿馬鹿しいな)
准は一人そう思いながら望の手の自らの手で大切に包み、歩いた。