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誰がために

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あの猿飛なんかが端的な例だが、真田は己の忍びが仕事を嫌がる素振りを許容している。
それがいっかな不思議で仕方ない。
伊達にも忍はいるが、そも草は自分の感情からの意見を表層には絶対に出さない。
まして仕事を嫌がる素振りなど出そうものなら、仲間内からも主からも文字通り切り捨てられる。
例えどれだけ、嫌々ながら優秀に結果を修めても、だ。
それは別にウチだけではなく、他のどんな武家でもそうだろう。
士気が下がる云々のまえに、草ごとき穢れた者がそんな意思を見せては示しがつかないのだ。
にも拘らず、真田忍の不思議なところは、それが許されている。
だから、単刀直入にWhy?と訊ねた。

「政宗殿、某は、人殺しが好きではありませぬ。」
「そりゃそうだろう。俺だって戦場を置いて、例えばそこの往来で辻切りなんて真似したいと思わねえ。」
「左様。好むようでしたなら、それは人でなしと呼ばれるものです。」
「Ah,Hur・・?」
「忍も、左様でございます。草と呼ばれ人でなしと扱われ、それでも五体も心根もある。人たりて、人ならず。」
「それが忍で、仕事だからな。」
「はい。某のような武家の者が戦場で人を殺すのを仕事として、あれらも人を殺すのを仕事とするのに、何故に人でなしとされるのか、お考えになられたことはござりませぬか?」
「そりゃ、忍の殺し方は卑劣卑怯も身上として、到底、武士の意気とも誇りとも相容れないもんだからだろ?」
「はい、全くその通りにござりまする。武士ではありえぬ、武士には出来ぬ殺し方を身のよすがとし、生計といたし、またそれが求められるからこそ、忍は忍として存在いたします。」
「だから?」
「仕事であるから行うだけで、やはり人を殺すのは、良い気分ではござらん。某とて、この者を戦場で殺したくない、と思うことがございます。なれど、戦場で敵方として相見えたならば武士として、殺すのが情けとして武人として殺す。」
ソレは、覚えがないわけではない。稚い元服したてだろう武者、農民上がりだろう兵。手にかけるのに、胸を過ぎるものがなかったわけではない。
「何故、こんな違いがあるのだろうと考えたことがございます。そうして一つ思い至ったのは、恐らく、武士が戦場で殺しているものが違うのではないか、と。」
「違う?」
「名乗りをあげ、作法に則り、尋常に勝負をいたしますな。戦い、殺し、勝って生き延びた者が覇をなし意を通します。極論やも知れませぬが、武士が殺しているのは命ではなく、意、観、目的や願いといった、思いそのものではありますまいか?だからこそ誇りを尊び、戦い方を選び、結果を手に入れる。武によって思いを遂げるという一点は、あの第六天魔王とて同じように某は思います。」
「それで?」
「忍の殺し方は真逆にありまする。誇りも何も無い、武士である瞬間よりも、ただ一つの命である瞬間を狙って殺します。そこに、思いは在りませぬ。だからこそ、武家の在り様にそぐわず厭われる。人が武士である瞬間よりも人である瞬間を狙い殺すが故に、人でなしと扱われる。」
全くその通り、と考える。それこそ意も覇も、取り繕うような何も無い瞬間を狙うということ。
それは、衣服も纏わぬ赤裸の状態を狙っているに等しい。
赤子のようにただ慈しむだけの、ひとつの生命である瞬間を踏みにじる行為は人で無しと呼ばれて当然のさもしさだ。
「舞を舞うに、舞台を整えます。美を極限まで昇華せんと舞を舞います。戦で覇を競うのが舞、戦場が舞台。なれど、忍のワザは舞台を降りてよりのもの。舞を披露するまでの鍛錬、そこを勝負の場とします。真っ当な人たれば、そのような不平等で勝負をしても良いものではござらん。なれど、忍のワザが必要とされるが故にいたします。」
真田はつい、と顔を歪める。波立つ感情が、そこにはある。
「忍やからとて、それを喜んでいるわけではない、という在り様が、某は愛おしい。申し訳が無いと思いまする。が、某のためにと忍従して忍辱を飲んでくれる在り様が、有難いものと心得まする。」
忍辱ときたか。寺にいたと聞くわけでもないのに、よくまあそんな言葉を知っている。
「仕事が大変、と佐助はぼやきまする。なれど、その大変を押してなお、某のためを通してくれる。あれらは失敗すれば、某のために人たらんことを捨てたにも、と並々ならぬ後悔をします。それが、本当に有難く、得難い忍の在り様よ、と愛おしいのです。」
ですので、ぼやきながらも完璧に佐助が仕事をいたしまするのを、某は密かに嬉しく思っておるのです。
声を潜めて告げた真田の笑顔が、どうにも幸せそうで、とんだ惚気を聞かされたもんだと、空を仰いだ。
どうせどこかに己の手下がいるんだろうに、まあ恥ずかしげも無くぬけぬけとほざいたもんだ、と。
作品名:誰がために 作家名:八十草子