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ただ、かなしい

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クルルギが、ゼロとただならぬ関係にあった。
これは正直、策案するうえで痛い話であった。
この話が漏れたとき、どれだけ士気が低下するか。
数値の上で出すことさえ可能だろう。
そもそも彼はナンバーズで、敵国にまで死神と呼ばれるほどの腕前で。
あくまでも命令に忠実に従ったとはいえ、情けはかけても容赦はしない、という戦いぶりだった。
あれには賛否両論というより、否定論が強かったのだ。
そもそも彼は、誰に忠誠を誓っているか分からない言動が多すぎる。
経歴からしてそうなのだ。
初めはシュナイゼル殿下の下に拾われた。
その後、ユーフェミア殿下に見初められた。
そして、今では皇帝陛下に請うて騎士として奉られている。
二君に仕えるどころではない。
まして彼は、二度目の行政特区を開く式典で、愚かにも「日本人のために僕は!」とのたまったと言う。
愚かしいにもほどがある。
ブリタニアの騎士であるなら、少なくとも公式にはブリタニアのためにと言わねばならない。
少なくとも、ローマイヤー女史を初めとするナナリー総督の陣営は、ブリタニアのためにと本国へ提案している。
それを、総督補佐の身で分からないなど、愚かにもほどがある。
あれは、恐らく本当の意味で、誰にも仕えていない。
だから、あんな自分の我侭を主張するのだ。
誰かを重んじたことなど、真実ないのではないだろうか。

まあ、そもそもにして、シュナイゼルの配下ではない。

ただし、シュナイゼルの元にいたから、世に出てきた。

あんな生き方も、あんな方法で世に出てくるタイプもいるのか。
「困ったものね・・・。」
大げさなくらいの溜息で、カノンは呟いた。
これから先、あんな風に出てくる人間が、また現れるかもしれないのだ。
人柄はよく見極めないとならない。

シュナイゼル・エル・ブリタニア。
彼は、昔から変わったヒトだったとカノンは思っている。
それは、多分ロイドくらいしか同意してくれないだろう事実だ。
―賢く。ただひたすらに賢く彼は在った。
皇宮の深奥で育まれた知性。先見性。知識。社交性まで。
どれをとっても不足なく、試しに、といわんばかりに学院に出ても教員が皆、舌を巻くほどで。
どこかに得意不得意があればまだ人間味も可愛げもあったろう彼の成績は、誰が見てもケチのつけようないほどに、オールマイティに完璧だった。
・・・初めは、その完璧さゆえの孤独を埋めたかったんじゃないかとカノンは思っていた。
どのジャンルでも彼は他の追随を許さないほど、試験は満点という結果を修めていた。
だが、どこかの分野で、彼と同等の結果を修める生徒がいた。
例えばそれは物理ならロイドだった。経済ならカノンだった。
そうして彼はそれら特定分野においての会話の中で、ロイドやカノンがおよそ学術としての領域を超え最先端で実践することを憶え始めていたことを知る。
他の科目は散々でも。その分野において垣間見ることの出来る才気。
彼はその才能を手放しで褒めた。認めた。
そして・・・手元に置いた。

その多くに、一癖ある人物が集まったことは恐らくシュナイゼル殿下の作意だろうとカノンは思う。

例えばカノンのような、性的マイノリティ。
例えばロイドのような、貴族のマイノリティ。
そういう睥睨される者や疎んじられる者や虐げられる者を、シュナイゼル殿下は積極的に受け入れた。
むしろそんな者ばかりを積極的に迎合した。
一度ならず「あるべからず」のレッテルを貼られた者たちが、シュナイゼル殿下のような「あるべき」者の最たる人間に、認められる。
それはどんなに甘美な経験であろうか。
どれほど離れがたい体験であろうか。
真実、麻薬のような常習性があるだろう。
そして、もの皆総じて他の誰よりも強い忠誠と献身を彼に捧げるのだ。
恐らくシュナイゼル殿下はその効用を熟知したのだろう。
だからこそ、配下に過不足ないよう、そんな人物ばかりを全ての分野において取り巻かせている。
他の誰でもない、シュナイゼル殿下にのみ忠実で、他の誰よりもその分野において突出している才能ばかりを。
畢竟、シュナイゼル殿下の周辺はあらゆるマイノリティの見本市のような様相を呈している。
それは彼の優しさだとか懐の広さだとか、そんな風に思われているが、そんな生易しいものじゃないのだ。
見るがいい。彼の全てにおいての容赦のなさを。
あの甘やかな表情、憂いた表情で下す合理性ばかりの命を。
そのギャップの美しさにこそ、真価はあるのだと、カノンは思っている。

クルルギ・スザクはその点、とてもシュナイゼル殿下の方針に添っていて、且つ傲慢だった。
民族的なマイノリティであること。突出した身体能力というデヴァイサーの才があったこと。行動に合理性を求めること。
どれもシュナイゼル殿下としては外したくない要件を備えている。
にも関わらずクルルギはそれに感謝の意を抱かなかったのではないか?
いや、感謝はしているだろう。だがそれは、己自身を置いてまでのものではなかっただろう。
そこが、カノンのような拾われた身には、同じ拾われた身の癖に、と傲慢に映る。
―ほら彼ひとりっこで、なまじ色々できちゃったから我侭なんだよね~ ――
などと笑ったロイドではないが、確かに我侭だ。
あれは、誰かを守るとか、誰かの命を預かるとか、そんなことの経験や自覚がない者の我侭だ。
騎士であるのに、誰も守っていない。
振り返ればユーフェミア殿下のときでさえそうだった。
常に、矢面でクルルギを守る言動ばかりだったユーフェミア殿下。
彼女はあれで、クルルギを得て守ることで、初めて人間としての真価を見せていた。
やり方はどうであれ、守り方も戦い方も体得していた。
・・・ただクルルギも、あれで守り方も戦い方も知っているようではある。
それが一体誰のためだったのか。
・・・・・それがもしや、ゼロのためだった?
くるり、とカノンはクルルギを置いてきた回廊を振り返る。
姿は見えない。
ただ、打ちひしがれていた姿だけは憶えている。
裏切り、裏切られて、どちらも憎悪していた。
あの怒り、憎しみは、どこから来るのか。
そんなことは、簡単に想像がつく。
怒りとは二次感情なのだ。その根源、一次感情は、悲しみ。
根底に、悲しみがあるからこそ、その感情が変化して怒りへと変わる。

ああ、悲しいを、愛しいと書いたイレブンの文化は正しい。

クルルギとゼロの間に、確かにあった情は一体どんなものだったのだろうか。
これから、どう変わっていくのだろうか。
作品名:ただ、かなしい 作家名:八十草子