深夜の風景
深夜の作業中、突然マグカップが差し出された。
部屋にいるのは自分の他に一人しかいない。
声のする方へ顔を向けると案の定そこには沙樹がいた。
「まだ起きてたのか?」
「ううん、目が覚めちゃった」
そう言って沙樹はマグカップを手に隣に腰を下ろす。
渡されたマグカップからは、ほんのりと甘い香りが漂っている。
「カフェオレ?」
「そう。コーヒーだと眠れなくなるかと思って」
そう言って沙樹は微笑んだ。
それから少しの時間が経った。
時計の針は2時を指している。
そろそろ作業終えて寝ようか、と隣にいる沙樹に声をかけようとしたその時だ。
突然、足に重みがかかる。
何事かと正臣が目を向けると、そこには沙樹の顔があった。
どうやら眠ってしまったらしい。
正臣の足を枕に、くぅくぅと寝息を立てている。
「沙樹ー、風邪引くぞー」
「ん…」
むずがるような、返事とは言えないような声を漏らす。
さっきまで手にしていたマグカップは、きちんとテーブルの上に置かれていた。
中身は空っぽ。
きちんと飲みほしてから眠りについたらしい。
「沙樹さーん、ほんと風邪引くから起きろ―」
「…」
今度は返事がない。
言葉の代わりに、沙樹は動きたくないと主張するように体を丸めた。
こうなってしまっては、おそらく朝まで目を覚まさないだろう。
選択肢は2つ。
このままここで寝かせておくか、それともベッドまで運ぶか。
細身の沙樹を抱きあげるのは、大変ではない。
けれどこのまま寝かせておいて、久々に寝顔を見ているのもいい気がする。
そんな感情を抱きながら、正臣は沙樹の髪を優しく撫でた。