不意打ち
それが何かはすぐに分かった。
「びっくりした?」
恥ずかしそうに微笑みながら、目の前に座る沙樹が言った。
正臣からすることはあっても、沙樹からすることは滅多にない。
「びっくりした」
正臣は感じたままを答えた。
「どした?」
「んー、なんとなく。急にしたくなったの」
頬を染めながら答える沙樹に、正臣は苦笑する。
こうして自分から行動を起こす時は、沙樹が甘えたがっている時のサインの一つ。
だから、正臣もそれを受け入れる姿勢があることを行動で示す。
ふわりと、今度は沙樹の頬に温かいものが触れる。
いつも彼女を包む、正臣の手だ。
頬に触れる手は温かく、沙樹の心を満たしていく。
自分が送ったサインに気付いてもらえたということに、笑顔がこぼれる。
「何してほしい?」
そう問われ、沙樹は答えを返した。
「ぎゅってしてほしい」
「りょーかい」
その言葉を合図に、正臣は沙樹の頬から手を離す。
そして、今度は両腕を沙樹に差し出した。
「おいで」
小さい子を迎えるような仕草。
けれど沙樹は、それがたまらなく好きだった。