ふいに襲われる不安
彼女だって一人で外に出たいこともあるだろう。
それに正臣がいない時に一人で出かけていることもあるだろう。
けれど、いつもと違う風景に、正臣の背筋に冷たいものが流れる。
違う、あの時とは違う。
ここは安全な場所だ。
そう言い聞かせても一度上がった心拍数はなかなか落ち着きを見せない。
正臣は肩から掛けていた鞄から携帯電話を取り出した。
そして待受画面に目を向ける。
そこには着信も留守録もメールも無いと映っていた。
(少し、出かけてるだけだよな…)
改めて自分自身に言い聞かせるが、それも効果らしい効果を見せてくれない。
電話をしてみよう。
そう決意して通話ボタンを押そうとした瞬間、正臣の背後でドアを開ける音がした。
「ただいまー」
ドアを開けたのは正臣が今まさに電話を掛けようとしていた相手――沙樹だった。
その姿を確認し、正臣は沙樹を抱きしめた。
「どうしたの?」
「何でもない」
突然のことに驚いた様子も見せず、沙樹は微笑みながら問い掛ける。
その問い掛けに、正臣は沙樹をきつく抱きしめることで答えた。
「もう、甘えん坊だなぁ正臣は」
「いーよもうそれで」
「いつもなら怒るくせに」
「怒ってねーじゃん」
「うそ」
そう言いながら、沙樹は正臣の背中に腕を回す。
そして小さい子をあやすように優しく背を叩いた。
「大丈夫、どこにも行かないよ」
「…俺、一言もそんなこと言ってないぞ」
「そんな顔、してたよ」
くすくすと笑う沙樹を腕から離し、正臣は「そっか」と苦笑した。