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愛でなく。

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ふとした瞬間。
衝動的に手を伸ばしている自分がいる。

まだまだ未発達の柔らかい腕を掴み、引き寄せる。
どうしたのかと問う子供を腕の中へと抱きこんだ。

なんだどうかしたのかと喚く子供に、なんでだろうねえと答えを返す。
そのうち黙ってしまった子供を腕の中にしっかと捕らえて、細い肩に顔を埋める。

なにがしたいのか、己でも分からない。
なんで抱き締めているのかなんて、自分が聞きたいくらいだ。

それでも離せない。
離せないでいる自分がいる。
触れ合う身体からじんわりと伝わる熱を、いま少しだけ感じていたいと思っている。

抱き締める腕の力を強める。
耳の側で息をのむ音が聞こえた。
食い込むほどに腕を巻きつけているのだから、それは息苦しいことだろう。
徐々に子供の息が乱れていく。

かわいそうに。
かわいそうに。

そう思いはすれども、子供を抱き締める腕を解こうとは微塵も思わなかった。
子供は好きではない。
高い体温も好きではない。
同じ柔らかい身体なら断然女の方が良い。
なのに何故。

「ナルト」

どうしてこんなにも目の前の子供には触れたいと思ってしまうのだろうか。
触れたが最後、離せなくなってしまうのは。

「ナルト」

そう思う自分が奇妙で仕方ない。
この行為に意味を求めても答えは出ない。

愛ではない。
愛である筈が無い。

ふとした瞬間。
つかの間の衝動。
こんなものは愛とは呼ばない。

「ナルト」

うわ言のような呼びかけに、子供が返事を返したことはない。
ただじっと大人しく腕の中にいる。
息苦しさに鼓動を早めながら。
解き放たれる時をじっと待っている。

「ナルト」

いっそ逃げ出してくれれば何かが変わるかも知れないのに、とズルイことを考えながら。
腕の中の熱が逃げることは無いと確信している。

これは愛ではない。
作品名:愛でなく。 作家名:飛ぶ蛙