二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

嘘なら

INDEX|1ページ/1ページ|

 


 ――――愛してるよ。

 大気へ逃げないようにひそめられた囁きが、アーサーの耳を溶かす。

 可愛い。

 慈しむように目を細め、優しく頭を撫でられてしまえば、頭の芯がジン、と痺れる。
 今からする行動を教えるように、唇をゆっくりとなぞられて、背筋に震えが走った。

(やめろ、ばか、そんなの。)

 こちらの瞳を覗き込んで、見せ付けるようににっこりと笑ってから、フランシスはおもむろに顔を寄せてくる。

(ちくしょう、ふざけんな髭、死ねよ。)

 頭の中で腹いせまがいの悪態をついてみるも、呆けた頭では口に出せない。

 アーサー…。

(やめろ、そんな、声で。)

 分かっているのにアーサーの心は素直に揺らいで、切なげに呼ばれた自分の名に心臓を握られる。
 アーサーはいつもフランシスからのキスを避けられない。口付けを予感させる視線の熱だとか、大切そうに触れてくる指先の意図だとか、全部分かるのに、フランシスの声がアーサーの思考回路を灼く。アーサーはいつだって何も出来ない。

(動けなくなる。)

 そうっと優しく触れた唇に、アーサーは叫び出したくなった。泣き叫んで死にたくなった。

(いやだ、いやだ。やめてくれ。)

 アーサーはフランシスを愛している。フランシスが熱を孕ませて耳に注ぎ込むのより遥かにずっと、比較にもならないくらい愛している。
 合わさった唇を静かにずらされて、フランシスの舌が間を割った。アーサーは形だけの抵抗もなく自分の舌を差し出す。それをねっとりと絡め合いながら、フランシスはアーサーの髪を撫ぜて、アーサーはフランシスの首に腕を回す。

(フランシス……)

 もっと舌を合わせられたら良い。ぴったりと一ミリの隙もなく、もっと深く、長く。フランシスを取り込むように、もっと。
 息を許さない激しい口付けで、下らない嘘も意地も、全部忘れさせてくれ。
 目眩がするほど続けられたキスがやっと終わり、どちらからともなく唇を離した時には、アーサーだけでなくフランシスも多少息が上がっている。それを見るといつも、ずくりと下半身が疼く。
 濡れた唇を舐められて、今度は啄むようにキスを受ける。深いキスは与えてくれない。
 その、常より潤んだ青い目に映る自分の顔がこの上なく真っ赤で、見るからに欲にまみれた顔をしているから、アーサーは顔を歪めた。
 しかしフランシスはそんなアーサーの頬を撫ぜる。

 可愛い、アーサー。

 アーサーの顔を両手で包み込んで、ゆったりと笑うフランシスの次の言葉を、行動を、アーサーは知っている。

 ……愛してるよ。

 そして、額にキスを一つ。

(…何が、愛してるだよ。)

 この男は、自分の一連の仕種で相手が陥落することを知っている。俺が、じゃない。誰でもいい、口説きたい相手がだ。

(やめろよ、もう。やめてくれ。)

 嘘ならもうたくさんだ。


作品名:嘘なら 作家名:高槻