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投影に溺れ生きるひとびとよ

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宇宙空間での叫びは誰にも聞こえない。
輝く星々の中で血を吐きゆっくりと死んでいったとしても。


「グラン 父さんがお前を呼んでいる」

父の使いでオレのもとにやって来たウルビダはそう機嫌悪く言い捨てた。目の前の男に注がれる露骨な愛情の偏りを彼女は憎んでいる。父さんは彼女にとっても父さんだから。
オレたちは孤児だ。吉良財閥の会長である父さんが息子を亡くしそれをきっかけに作られた児童養護施設で育った。今は、子を奪われた父さんが世界に復讐するための生物兵器である「宇宙人」として生きている。

「悔しいかい」
「煩い。どこまでも腹の立つ奴め。私は心からお前が嫌いだ」
「オレはこんなに君が好きなのにな」

だまれ、と言い終わらないうちに手首を掴みぐいと引き寄せ 壁に押し付けた。
研究所内に腐るほどある大きなカプセルの中でコポコポと音をたてる液体が彼女を照らした。太い管に繋がれたそれらが目に入りなんとなく子宮のようだと思った。ああそうだこの施設は母胎に似ている。
ぼんやりとそんなことを考えていると、少女が両手で力いっぱいの拒絶を示した。

「私は、おまえの”姉さん”じゃない」

怯むことなく真っ直ぐに睨みつける眼差し。強気な顔立ちが父の実娘によく似ていた。



姉さん。昔から感情を表に出すのがひとより苦手で、でも本当は誰より優しかったオレの姉さん。ふわりと撫でてくれる滑らかな手。
ヒロト って、無機質な話し方する人だから分かりにくいけど、ありったけの愛情を込めて呼んでくれてるのをオレは知っていた。
血は繋がっていない孤児のオレを本当の兄弟のように愛してくれた姉さん。
姉さん 姉さん オレは姉さんが、宇宙で一番、狂おしく好きだったよ。

初めて姉さんの身体に触れた日 ベッドが不快な音をたてる中痛いほどオレにしがみついて長い髪を乱した姉さんが呼んだのは、

『にいさん、兄さん』



「そうだね、君は姉さんにとてもよく似てる」

ウルビダの髪をすくい上げ、指の間から流れ落ちるそれを見つめながらつぶやいた。

「姉さんに似てる君が好きだよ。それがどうして嫌なんだい?おれが君を愛してることに違いはないじゃないか」


*********

「男前になったな」

殴り倒された体勢のまま天井を見つめて数分 父さんから呼ばれていたことを思い出したので ようやく立ち上がり既に彼女が乱暴に出て行った部屋を後にする。
仲良く壁によっかかって待ち伏せていた2人と目が合う。ほんと。仲良いねおまえら。精一杯の皮肉を込めて。

「盛大にパンチを喰らったよ 痛い」
「他の女に似てるから好きだなんて怒って当たり前だろう」
「好きだっていう気持ちに変わりはないよ。オレはほんとうにウルビダかわいいよ」
「チッ なんで父さんはこんな 人の気持ちも分からないバカを可愛がるんだ。理解できねー」

”誰かを誰かに重ね合わせて愛するなんて 本当の愛じゃない”

だったら何だっていうんだ? オレは じゃあオレはどうなる?父さんの息子に似ているという理由で、父さんの息子の名前を付けられて、ヒロトとして生きてきたオレは。
似ているからこそ、父さんにも、姉さんにも、惜しみなく愛をたべさせてもらったのだ。
重ね合わせでも好きだと、愛してもらえたらそれは嬉しいことだろう。オレは嬉しいよ。うん 嬉しい。

投影が罪だとしたら、オレは罪の塊じゃないか!


*********

オレが姿を見せると父さんは嬉しそうに笑った。ああ、ヒロト、来ましたね。たまには一緒にお茶でも飲みましょうか と、研崎に茶菓子を用意させる。
父さんが幸せそうにしている。思わず笑みがこぼれた。
畳とお茶とほのかなお香が父さんの匂い。

「いただきます」
「ところでその顔はどうしたんですか」
「宇宙人業の産物。オレ仕事ねっしんだから。どうってことないよ。父さんは心配しないで」
「…そうですか。……”宇宙人”は辛いですか」
「ううん、そんなことない。わりと気に入ってるよ。」
「本当にそう思うのかい」
「本当だよ。宇宙人かっこいいしね」

本当はそんなことはこれっぽっちも思ってはいなかったのだが。おれは父さんのためなら何だってできるよ。微笑を期待して見上げた顔からは先ほどまでの表情は消えていた。
まじまじとひとしきりオレの顔を眺めて、満足そうに目を細める。

「やはりお前くらいの歳の男の子は、宇宙人が好きなのですね」
「え?」
「ああ、いや、昔…そう、遠い昔にね。とある少年が、同じようなことを言っていました。」



SF映画のエイリアンが怖いと泣き出す幼い妹。誰が本物を見た訳でもないのにやけにリアルに造形されたそれは少女が怯えるのも無理はなくグロテスクであった。
しがみつく妹を少年は優しくあやす。
宇宙人、かっこいいじゃないか。怖くなんてないよ。ともだちになればきっとぼくらのこと守ってくれる。とっても強いから、悪い奴らをやっつけてくれるよ。
ね、だから泣きやみな と、彼女の頭をふわりと撫でた。ぼくも宇宙人になってみたいな それで宇宙一のサッカー選手になるんだ!



「そう、宇宙人は、悪い人間をやっつけてくれる」

甘やかな過去に酔いながら、目の前の少年を慈しむように見つめる父の視線はもうオレを見ていなかった。




ああなんて愛おしく、くだらない宇宙人ごっこ!
それでもオレは 父さんが愛する宇宙人を演じ続けようじゃないか。からっぽのオレを愛し続けてくれるなら、与えられているように見えるのは吉良ヒロトへの愛情の影だとしても、それでもおれは幸せです。父に抱きしめられながら宇宙の誰にも気づかれないようにヒロトは笑った。

2010/07/25