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今日は一人で過ごすには寒すぎるので

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「寒ぃ……」
校門にもたれながら呟いた言葉は誰にも拾われることなく寒空に消えていく。いつも呆れるくらいに構ってくる金髪は、今は、いない。

いい加減帰って来いよ。

今度は心の中で呟いてポケットに突っ込んでいた手でそのまま携帯を探り出しサブディスプレイを光らせる。夜闇になれた目に眩しく主張される数字は、18:36。

週に一度のミーティングが終わったのが17:30。部員の奴らと少し喋って、じゃあ帰ろうかとなったのが17:48。一緒に帰る予定だった浜田が志賀に呼ばれたのがその数分後で、じゃあ待っていると自分で口にしたのも同時刻。

逆算の結果、もうかれこれ30分以上は待たされていることになる。

溜息をつくと温かい呼気は白くなって霧散した。余計に寒くなる光景に、また溜息がつきたくなる。


ちょうど10日前の冬将軍の到来で、ここ数日馬鹿みたいに冷え込むようになった。日が落ちて、あとは冷えるだけの大気と背を預けた校門の固い石が、コート越しにも容赦なく体温を奪っていって、いい加減、本当に、寒い。
あと30秒したら先に帰ってしまおうと、泉は再び携帯を光らせてカウントダウンを開始する。
30、29、28、27……4、3、2、1、

0。

「泉!」
心の中で唱えると同時に、聞きなれた声が響いた。続いてバタバタと忙しくコンクリートを蹴る音が響く。

「泉!ごめん!」

目の前に駆け寄りざま頭を下げて肩で息をする闇に溶けた金髪を一瞥して、泉は携帯をポケットに入れなおす。

「……漫画みたいなやつだな、お前」

あんな、ナイスタイミング。

「……なにが?」
「別に」

こっちの話、と、きょとんとする浜田を適当にあしらって泉は歩き出す。
しばらくすると慌てたような声が隣に並んだ。

「ちょ、え、泉、怒ってないの?」
「別に、浜田が悪くて待たされたわけじゃねえし」
「泉……」
「ていうかお前のために待ってたわけじゃねえかんな!今日はシチューが食いたいし甘いものが食べたいし。あ、ケーキな。浜田んち寄るから作れよ!ああ寒ぃ!!」

最後に余計なものをくっつけて要求を全部並べてやる。

と、半歩後ろを歩いていた浜田にいきなり腕を引かれ、そのまま抱きこまれた。
あまりに唐突過ぎて寒さに凍った思考回路が上手に回らないままでいると、体を抱く腕に力がこめられた。

「な、に、すんだよ、放せ!」

思い出したように抵抗すると、えー、と(なぜか幸せそうに)ぼやく浜田の声が頭の上から降ってくる。

「だって泉が寒いって言ったじゃん」
「意味わかんねえ!誰か来たら、」

言いかけて口を噤む。
そんなわけない。この時間、こんな田舎。
泉は諦めて嘆息すると、浜田の腕を軽く叩いた。

「放せ」
「えー」
「いいから放せ」

有無を言わさぬように命じると浜田は渋々と腕の力を弱める。
泉はその中で体を反転させ、向き合うようにして、浜田の胸に頭を預けた。

「い、いずみ!?」
「……うるせー」

寒いんだよ、黙ってろ。

目を閉じて呟く。
恐る恐ると、背中に回った浜田の腕に再び力が入った。

「泉……俺、泉のことすごい好き」
「……あっそ」
「大好き、孝介」
「な、」

思わずガバリと顔をあげると暖かい吐息が唇に触れて離れていった。
呆然と近くてぼやける金髪を眺める。
えへへ、と浜田が笑った。同時に一連の流れを把握する。

「……ざけんなテメエ!」

容赦なく脛を蹴り上げると痛いと声があがったが、そんなもの気にしてやる必要もない。蹴ったついでに肩を突き飛ばして逃げるように歩き出す。

頬が熱い。きっと、いや絶対、今赤い顔してる。
冷えた手で熱を冷ましながら、とりあえず、寒くて仕方がないが落ちるのが早くなった太陽に感謝したいと思った。