記憶で憶測
本当は言葉を並べて、あなたがくれた言葉を並べて、助けを求めたかったのかもしれない。
でもそれはもう昔の話で、それはもう昔の感情で、もう今のものじゃないはずだ。
「何を考えてるアルか」
「何も考えていませんよ」
雨の音が地味に響いて、言葉をかき消して耳に届かないことを願った。
漆黒の髪に何の邪念も持たず触れることはもうできない。兄さま、忘れないで私のことを。
「日本」
「…」
「日本?」
「…」
口を噤んでしまえば何一つとして伝わらないことを知っていた。本当は全部吐露してしまいたいんだということだけでも伝えておけばよかった。兄さまが不思議そうに私の顔を覗き込んだとき、浅はかにも私は口を開きそうになりました。でも、いやでも少しだけでも、でも、そうやって自問自答を繰り返して終ぞ何も言わず、貴方に何一つとして伝えることなく、私は、
貴方に背を向けました。
何の躊躇もないように振る舞えていたとしても身体と脳は歪に動いて私は迷い続けています。
幸せな手を離したのは私で、恩をすべて投げ捨てたのも私だった。それが対等になりたかったからとかそういう云々を踏まえようが排除しようが、その事実だけは今も傷痕として消えない。貴方に傷を付けたはずなのに今もこうして、私の心はずっと後ろめたい。
貴方の甘やかすような声が聞きたい。私にはきっともう二度と、ああは接してくれないでしょう。私が悪いのだから当然だけども、私は貴方が憎かったわけでも、嫌いだったわけでもない、でも貴方に擁護されたまま、見えるものの少なさを嘆いていただけで、
本当は、
一緒に居たかったのに、と伝えたら貴方は、笑いますか。