神様の背中
もし君がいなければ、
ぼくはたいせつなかぞくのために、何の迷いもなく強さだけを求め続けられていた。他の世界はいらない、盲目にただ真直ぐと。
けれど、君と出会ったおかげで僕はこの世界がどんなに脆く、拙いいつわりで塗り固められただけのにせものにすぎないか気づいてしまったんだ。
そして鍍金が剥がれるごとに、溢れ出てくるのは自分の弱さ。
最強のハイソルジャーだったはずの僕は、物語のおわりにはてのひらをからっぽにしたただの人間へと転がり落ちてしまった。
ぼくだけじゃない。
例えばずっと、亡くしたはずの最愛の人とふたりぼっちだった彼。君と出会わなければ、彼とかれのひどくやさしくすこしだけざんこくな世界は崩されることなく、ゆるやかに、永遠に、廻り続けていたんだ。少しの痛みを残しながら。ところが、君がその世界に勝手に踏み入って、少しずつ歯車をずらしたおかげで、かれは世界から消えて、彼はひとりぼっちになった。
けれどそれは、他の世界を穏やかに享受することのできる、孤独とは程遠いひとりぼっちだった。
沢山のものを崩して、思うままに作り変えてしまった君は、今日もなんのゆがみもない笑顔でボールを追い続ける。きっと君は、自らの軌跡にうっすらと広がり続ける薄暗くてしんしんと冷たい罪のかけらたちに気づくことはないのだろう。それと向かい合うには、彼ひかりで溢れすぎているから。
「ねえ、ま…円堂君。」
「どうした、ヒロト?」
けどね、円堂君。不思議なことに僕は、そんな無垢な偽善を纏った君と出会えたこのきせきを、君のまっすぐな視線を追って走り続けるこのフィールドを、一度だって後悔したことはないんだ。
「…サッカー、やろうか。」
「おうっ!」
そうして今日も、僕は君の隣りでボールを蹴り続ける。
ねえ、だからさよならだ、僕のかみさま。