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夏の嵐

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雷が鳴っている。
雷鳴は一瞬ばかり室内を明るく照らし、それからすぐに部屋を震わせる轟音を響かせた。
これじゃあ、午後の授業は無理かもなあ、と中忍の優男はゆるりと溜息を吐き空を見上げた。
光る稲妻に、本を持った子供たちが甲高い悲鳴を上げる。
まだ年端もいかない子供が、ギュッと隣の子供の裾を掴み、ねえ、ここに落ちたりしないのと不安げに瞳を揺らしながら訪ねていた。雨脚はひどくなる一方で、どうやら強い風も吹き始めたようだ。火の国といわれるだけあって、晴れた天候の多いこの土地には雨が降ることはあったとしても、嵐が訪れることは少なかった。ごうごうと風が窓ガラスを叩き、子供たちを怯えさせる。
本来ならば午後からは所謂社会科見学のようなもの、つまり現役の忍達が使っている施設の至極簡単な説明を行う予定であった。けれどもこの嵐では外に出歩くことは危険であるし、何より屋外の施設も多いので説明は難しいだろう。はあ、とイルカは溜息を吐く。
(またアポ取りからだ)
この見学を企画した際、多分任務明けでいらついていたのだろう問題を起こさんでくれと言った冷たげな上忍の視線を思い出して少しばかり憂鬱な気分になるのだった。

ぴかりとまた光る雷に、子供たちがきゃあとまた甲高い悲鳴を上げる。幼い子どもゆえに、自然現象のようなものに対する言いようのない不安感は大人よりもはるかに大きかったりするのだろう、イルカはにわかに頬笑み、手を叩いた。手と手を取り合って震えているピンクの髪の少女と金髪の少女に笑顔を向けながら今日の午後の授業だがと切り出した。風が強くて危ないからと説明するころにはほとんどの子供たちが、家へ帰れると安堵の表情を浮かべながらこちらを見るのに気分が浮上しいつも通りに軽口を叩いた。

かえろうかえろう、と子供たちが幼く笑いあう。
人の少なくなった教室には親を待つ子供が肩を寄せ合わせながら談笑する姿があった。自分も幼いときはこんなことをしていたと、イルカが懐かしく思い返しながら教室を見回していると、すごく後ろのほうで、金髪の少年が黙ったまま窓の向こう側を眺めているのを見つけた。彼は、多分この里の中で誰より有名で、誰より憎まれているとイルカは知っている。イルカ自身、彼に対して難しい感情を抱いているのだから他の人間をとやかく言うことはできない、できないが、言ってしまえば同情に似たようなものを彼に対して抱いていた。
窓の向こう側を、授業を受けるときの表情とは全く違う顔をして眺める彼に、どういうわけか声をかけるのをためらっていると、背後で教室に残っていた最後の少女がさようならせんせい、とたどたどしい口調で笑いかけてきた。髪を一つにまとめた母親が頭を下げるのに返事をしながら、ああ、気をつけて帰るんだぞとイルカもやさしい笑顔を向けると、がらんとした室内は一層寂しいものになった。薄暗い室内に雷鳴がとどろく。普段はあんなににもうるさくやかましく、悪戯好きな彼がとても静かにそこにいることが、イルカは不思議でならなかった。
どこか具合でも悪いのか、と尋ねようと思ったが、声をかける寸前に真っ青なあ瞳がこちらを向くので、イルカはそのまま息をのんだ。ひゅっと不自然にのどが鳴る。

「何で雷って光るんだってばよ。」

ぴかーってさと動作大きく訪ねてくる少年に、イルカは入れていた肩の力を抜いた、なんだ、いつも道理のナルトじゃないかと胸を撫で下ろした。

「なんだお前、雷が怖いのか?」
「怖くねーもん」
「へー。じゃあ、ナルトは何が怖いんだ?」
「怖いもんなんてないってばよ!」

へっへーんと胸を張るナルトに、イルカは頬を緩ませた。
ふわふわとする髪を撫でながら、お前はすごいなあと褒めてやると、くすぐったそうに首をすくめた。

「じゃあ、苦手なものもないのか?」
「苦手?」

イルカがちょっとした興味本位で尋ねると、ナルトはオウム返しに言葉を返し、ううーんと首をひてって唸った。苦手、苦手、と口の中で繰り返しながら考えている様子が、年相応でかわいらしい。この子がこうして子供然としているのが気に入らない大人たちからすれば、これは忌むべき動作なのだろう。化け物は化け物らしく、という、全く馬鹿げた考え方を持った大人が少なくともいるのだ。たとえそういった考え方をしなくとも、ナルトという人間を知らずに憎む大人は多数いる。閉鎖的な里という中でナルトはいつまで化け物でいなくてはならないんだろうか。そうして、自分はいったいナルトを何と思っているのだろうかと、イルカは自問した。首をかしげる幼子に微笑み返しながら、そんな大人と自分は一緒でしかないんだろうかと考える。
ナルトは逡巡が終わったのかんーと伸びをして野菜とか!と声を上げた。あと寒いの!俺寒いの無理!!ダメと眼の前で手をクロスさせる姿にイルカは笑った。

「苦手なもんはそれくらいだってばよ!俺ってすごい!」

そう言いながらひょこひょこと扉のほうへ向かって走っていく。あ、と何か思い出したように立ち止まり、扉のほうでこちらを振り返った。厚い雲のせいで室内は薄暗く、廊下はもっと薄暗い。闇のようなものがぼんやりと広がる扉の前で、ナルトは忘れてた、とでも言わんばかりの表情をした。

「嫌いなもんのが苦手なもんより多いかもしんねーってばよ。」
「へえ、たとえば?」

そうイルカが尋ねると、ナルトは答えるように口端だけあげて笑った。眼はちっとも笑わずに、薄闇の中で明るく光っている。獲物を狙う猫みたいだとイルカは思ってからすぐにその思考をふりほどいた。

「せんせーには教えないってばよ!!」

そういうとナルトはそのまま踵を返し教室から出て行ってしまった。にこやかに笑う姿はいつも道理で、それが逆に不自然な薄ら寒さを呼んでいる。
(なあ、お前は、本当に、)
イルカは言葉の続きを吐いてしまいたがったが、口を閉じてその衝動をこらえた。
ただただ、薄暗いような光ばかり満ちる世界に、異様に光るセルリアンブルーの瞳は、どこか冷たげでぞっとしたものを背筋に感じさせたのだった。
作品名:夏の嵐 作家名:poco