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PANDRA CHLDREN 01

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P.A.N.D.R.A CHILDREN BEGINS side Momiji from:糸色対可憐チルドレン


 ドアのチャイムを鳴らす気はもとからなかった。
 |瞬間移動≪テレポート≫で玄関に入り、靴を脱ぎ上がり框に足を乗せたところで、廊下を横切ろうとした紅葉と目があった。
「京介!」
「やあ、紅葉。久しぶり」
 言ってしまってから余計な一言だったと思うが、後の祭りだ。案の定むっとした顔で紅葉がやってきて、兵部をねめつける。
「ホントに久しぶり。忘れたのかと思った」
「ひどいなあ」
 けっしてそういう訳ではない。三人に会いにいくのに、かつてない位時間があいてしまったなあ、と思った頃には焦って言い訳を考えたり逃げ出す段取りを練ったりしていたのだが、何の因果か蕾見不二子管理官が起き出してきたのだ。
「あたしたちを育てるって決めたんならちゃんと育ててよ」
 紅葉の言うことは正しい。だから兵部も頷く。
「そこまでしっかりしてると、僕がいなくても”ちゃんと”育つ気がするけどなあ、紅葉」
 というか、いないほうがいいのでは。自分は犯罪者だし、幼少時代からすでに超能力者として生き、少年になる頃にはもう特務部隊に配属されていたから、まっとうな生活なんて送ったためしがないのだ。
 などと考えていると紅葉がまた上目遣いに兵部を凝視している。
「まさか、自分じゃないほうがうまく育てられるとか考えてないわよね」
 鋭い。
「いや、ははは」
 女性の観察眼というのは、どうやらこんな小さな頃から爛々と光っているものらしい。
 そういえば、かつての姉だった人も、何かというと兵部の小さな綻びを見つけては、重箱のすみとばかりにつついてきていたっけ。
「ほーんと、――さんみたいなこと言うなあ。わかったよ、もう考えない。」
 世話を焼かれるのがすこしだけうっとおしくて、でもその百倍も嬉しかった。
 地上に超能力者はお前達二人しかいないと告げられたとしても、自分はきっと寂しさを感じることはなかっただろう。
『覚えておきなさい』
 その影がふいに兵部と少女との間に現れる。まだ「管理官」ではなかった頃の女性の姿で。
 ああこれは過去に言われたことのある言葉を思い出しているんだな、と他人事のように思う。
「京介がいなくてもいい世界なんて存在しないんだから」
 思い出の中の声と、耳へと届く声と。
 兵部の視界に、二人の少女の影が少しずつ重なり合っていく。声もまた。
『世界に二人だけ、なんて考えないの』
「あたしたちには京介が必要なんだから」
 だって――二人の女性の声が重なる。
『「あなたはもう、ひとりじゃない』」
 目の前の少女と心の女性とが発する声が重なる瞬間、兵部はこんな場合なのに、何故か感動に近いようなものを感じていた。泣きたいような嬉しいような気持ちの間で体が震える感覚を。
『あたしが』
「あたしたちが」
 重なっていた影がぶれてくる。片方が薄れ、薄暮のように白くゆらいで。
「いつもあなたを待ってるから」
 そしてより幼いほうの少女だけが残る。幻影ではない、青みがかった髪も、細い顔の輪郭も、皺の質感までもが伝えてくる――これが現実だと。こちらこそが、自分が今生きている時間だと。
「だからいなくならないで」
「……うん」
 過去の亡霊ではないものに心を動かされるのはそういえば久しぶりだ。もう何十年も、感じたことがなかった気がする。
「わかったよ、紅葉。忘れない」
「わかればいいの――おかえりなさい、京介」
 顎を軽く上げ、やや上から見下ろすような姿勢で言い放つ少女の顔に、もうあの女性の幻影が重なることはないだろう。道は遙かに分かれてしまっているのだ。
「うん、ただいま」
 小生意気にも取れる目線をかいくぐって頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でると、その頬もまたほころぶ。
「司郎も葉も待ってたんだから!」
 嬉しそうに紅葉が兵部の腕を取って、もう二人のいるほうへ行こうと急かすから。
 自分が一人じゃないと思える限り、この少女と、もう二人の大切な子供のことを、自分は大切に育てよう。いつでも。いつまでも。

                              <終>
作品名:PANDRA CHLDREN 01 作家名:y_kamei