日が昇る
日が昇るまでは、寒い。
分かってはいる事とはいえ、寒いものは寒いのだ。
暖をとろうとし、つい隣へと手を伸ばす。
だが、目的の暖はなく。
冷たい布団の感触。
疑問に思い目を開ければ、既に隣に人影はない。
「……何処、行きよった?」
布団に包まりながら、辺りを見回せば。
朝日も昇りきらない、少々暗い室内で動く影が一つ。
愛用の銃を使い、いつもの様に早撃ちの基礎練習。
毎日毎日、厭きもせず良くやる奴だと思う。
声をかけようとはせず、ぼんやりしながらその行動を見守る。
見始めてから、数十分。
段々と室内に日が差し込み始めた頃。
やっと休憩を取るのか、一度伸びをし、銃をテーブルの上へと置いた。
普段は綺麗に逆立てられた髪の毛が、今は降りている。
その髪の先から、汗の雫が垂れた。
イスに引っ掛けてあったタオルを取り、汗を拭く。
その時、ふと此方を見遣った目と、視線が合った瞬間。
笑顔。
「あ、起きた?」
「……」
「ウルフウッド?」
「起きてない……」
「嘘ばっかり」
「嘘やないですー、まだ起きてまへんー」
目が合っているし、話しているのだから起きているのはバレているが。
頑なに布団から出ようとはしない。
仕方ない奴だなぁと言いながら、勢い良く布団を剥ぎ取ると。
換気の為に開け放たれた窓から吹き込む外気が、ウルフウッドの身体を冷やした。
「さっむ!なにすんねん!」
「君も少し身体動かせばいいんだよ」
「朝っぱらから疲れたないわ」
仕方なく起き上がると、ベッドの端に腰掛ける。
ぼーっとする頭を掻き、横へと目線をそらし。
脇において置いた煙草を一本手に取ると、ゆっくりと火を燈した。
瞬時、ヴァッシュの顔が曇る。
「君ねぇ……ベッドで煙草吸うなって、いつも言ってるだろ」
「そんなん知るかぁ。おんどれもその汗臭いのとっととどーにかせぇよ」
ウルフウッドはそう言い放ち、我関せずといった顔付きで煙草をふかしている。
ああ言えばこう言うんだから、と呆れ顔のヴァッシュ。
そして横目で見遣りながら、一言。
「……灰、落とさないでよ?」
「お子様扱いすんなや」
「実際、君のが年下でしょ」
「……おんどれもああ言えばこう言うやないけ」
ウルフウッドは紫煙を吐き出しながら、窓際へと寄っていく。
窓の近くに居たヴァッシュは顔を顰め、煙を手で払う。
「いちいち君が突っ掛かってくるからだよ」
「へーへー、ワイが悪ぅございましたー」
「悪いって思ってないでしょ」
「よー分かってるやないけ」
ウルフウッドは悪童の笑みをもらし、ひらひらと手を振る。
「もー……ちょっと、シャワー浴びてくる」
「おー、とっとといってらー」
ヴァッシュは盛大な溜息と共に歩き出し。
ウルフウッドはそれを見送った。
そして、残されたウルフウッドはポツリと一言。
「そろそろワイも、本気出さなアカンか?」
ふっと、息を漏らし、ほぼ灰になりかけた煙草を揉み消した。