万華鏡
休み時間に佐久間のクラスへ行き、彼の隣席でだらりとするのが源田のひそかな楽しみになっていた。
「源田ぁー」
机に突っ伏していた佐久間は首だけ動かせて源田を見るとうんざりとした声で言った。
「愚痴を聞いてやろうと思ってさ、不満いっぱいあるんだろ」
「きどぉーさんいあいたいーぃーーーー!!!」
「手紙は出したのか?」
「返事こないぃー」
佐久間が駄々っ子のようにぶつくさ言い始めた。佐久間の最愛の鬼道は国外に出ており、授業はおろか部活でさえ顔を合わすことはない。耐えられないから俺も後を追うと父母に頼みこんでいたが、そんな不純な願いは受理されるはずもなく却下されて今に至る。
「忙しいんだろうな。いい子にして待ってたらご褒美くれるかもしれないぞ」
「うん…」
根拠のない慰めだったが、佐久間はほわんとした柔らかい微笑みを浮かべて素直にこくんと頷いた。普段は冷徹な表情の佐久間だが、鬼道が関わるとふんわりと優しい笑顔になる。もともと少女のような可憐な顔立ちなため、その笑顔は本当に可愛かった。
「ところでさぁ、慰めてくれんのはありがたいんだけど…」
佐久間は急に表情を変えてくいと指である方向を指した。
そこには源田を見つめてきゃあきゃあと言いあってる女子の姿が映り、源田と目が合うと
「源田くーぅーん、一緒にあそぼー」
「あいかわらずカッコイイー」
黄色い声を上げながら駆け寄って源田にまとわりついた。
「悪ぃ、佐久間と話したいことがあってな。また今度」
源田が言うと女子はえぇーと不満そうに顔を顰めたが、優しく微笑みかける源田の表情にほだされてしまい、彼女たちは部屋を後にする。
「そういやお前、最近全然女子とつるまねえよな?」
佐久間は不思議そうに源田を見る。凛々しい顔立ちの源田は女子に人気があり、以前はしょっちゅう女子に囲まれて休み時間を過ごしていた。特定の彼女は作っていなかったが、複数の女子と関係を持っていたのを佐久間は知っている。恋愛とは関係のないファンサービスのような軽い付き合いであるし、別れ上手なため恨みを買うようなことはない。
そんな源田がライフスタイルを変えて自分とつるむことに佐久間は不思議で仕方がなかった。
「愚痴聞いてもらえるのは有難いんだけどさ」
もしかして気を使わせてしまったのかもと殊勝にもそう考えた佐久間は申し訳なさそうな顔で源田を見た。
「俺が好きで来てるんだから気にするな」
源田はくしゃりと佐久間の顔をなでてやると、ガキ扱いするなと言いつつも嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て源田も笑った。
(悪いな佐久間)
源田は心の中で謝る。佐久間は純粋に友情から源田が来ていると思っているようだがそれは違う。女子と居るよりも佐久間の表情を見ている方がとても楽しいのだ。鬼道のために一生懸命になる姿はとてもひたむきで可愛く映るし、試合に勝つために努力する姿はとても凛々しく映る。万華鏡のような佐久間は本当に飽きのこない玩具である。
「応援してるから頑張れよ」
源田がぱしっと背中をたたくと
「あたりまえだ!!絶対鬼道さんを振り向かせて見せる!!」
佐久間はこぶしを握って言った。
(ああ、本当に佐久間は面白い)
楽しくて楽しくて源田は笑った。