本日ハ晴天ナリ。
さて今日は、大変美しい青空が広がっておりました。
正しくは『青』というよりも、そうですね、『天色』といったところですか。
できればお布団を干したいところですが、誠に残念ながら、ここはヨーロッパ。
ともあれ、よい訓練日和です。
「今日は存分に訓練ができるな。」
「しばらく会議会議で忙しかったですものね。」
心なしかウキウキとしたドイツさん。
私も久々に体を動かせることを嬉しく思っていました。
書類の束との格闘は、しばらくご遠慮願いたい。
二人であれこれと訓練のメニューを話し合っていますと、どこかに姿を消していたイタリア君が、ひょっこりと生垣から現れました。
「隊長!!」
ああ、草の葉や土汚れが軍服のあちこちについています。
これは猫とでも戯れていたんでしょう。
ドイツさんも気づいたようですが、すぐに何事もなかったかのように話をすすめました。
「まずは武器の手入れと実戦に近い演習を行いたいのだが。」
「隊長!隊長!」
「はい、異存はありません。」
「ハイハーイ!オレの話も聞いて欲しいでっす!」
「そうか。では次に・・・」
さすがドイツさん。
白旗を振ったり、ゴスゴスと体当たりするイタリア君のことなど、まるで目に入っておりません。
あれだけのアピール攻撃を流してしまうとは。
何が何でも訓練を実施するんだ、と並々ならぬドイツさんの強い意思が窺えます。
まあ、気持ちは分かります。
分かりますが、私にはそこまでのスルースキルは装備されておりません。
「あの、ドイツさん?」
「なにか質問か?」
「いえ。あの、イタリア君の意見も聞いてみてはいかがでしょうか?」
私からの提案に、ドイツさんは盛大に眉を顰めました。
その非難をこめた視線に、私は微笑むしかありません。
どうやら無碍にはできない、と思ってくださったようで、渋々ながらも、イタリア君に発言の許可をしてくれました。
実にすみません。
「では、10秒間だけ時間をやる。」
「ピクニックがしたいであります!!」
「却下だ。では日本、先ほどの続きだが、」
なんと鮮やかな!
一刀両断、とはまさにこのことでしょう。
すぐに私の方に向き直ると、手榴弾を手に取って、懇切丁寧に説明してくださいます。
ありがとうございます、ドイツさん。
しかしイタリア君は諦めていないようですよ?
「隊長!!」
「今度はなんだ。」
「皆で食べるBENTOUは絶対美味しいであります!!」
確かに、この青空の下で食べる弁当は美味しいでしょうねえ。
三人一緒に食事をとるのも、随分と久しくなっていたような気もしますし。
私も、イタリア君の提案に心が揺らぎそうです。
「そうだな。いいか、日本。このピンが重要だ。これは外してすぐに、」
ドイツさんは、1ミリもぶれません。
今日は本当に訓練がしたいんですね・・・イタリア君抜きで。
これは私も気を引き締めなければいけません。
「たいちょぉぉぉーっ!!」
「耳元で叫ぶな馬鹿もんっ!」
ゴツッ。
それは見事な拳骨でしたよ。
ええ、皆様にもお見せしたいぐらいに完璧でした。
「ヴェェェーにほんーいたいよぉ」
ああ、ほら、イタリア君、泣かないで下さい。
日本男児たるもの、むやみに涙をみせてはいけません。
ああ、知っておりますよ、貴方は立派なイタリア伊達男だということは。
さきほどは言葉の綾というものです。
「痛くしたんだ当然だろう。」
「ヴェェェードイツがひどいよぉにほんー」
「自業自得だ、馬鹿者。」
「はいはい、イタイのイタイのとんでけー」
それにしても立派なたんこぶですこと。
いつもはもう少し手加減してくださっていますのに。
それだけ、ドイツさんの意思が強固だということを分かりましょうね。
「ドイツのドエスー!!サディストーッ!!」
・・・火に油を注ぐとは。イタリア君もなかなかやりますね。
私の背に隠れたところで、隠れきるわけがないことはご存知でしょう?
なんですか、嫌味ですか?
「どうやら堪えてないようだな。」
「ウソウソウソウソ!!ごめん!嘘です!!だから間接技はやめっギャァァァ!!」
やれやれ、どうやら今日の訓練はなくなりそうですね。
まあ、イタリア君の意図したものとは別の結果となりましたが。
今日も平和でなによりです。
ところでドイツさん、ピンを抜いた後はどうすれば?