somerday oneday
「暑いな」
惰性で点けっぱなしのテレビには、今年一番の暑さでしょう、とリポートするさわやかなお姉さんとこの地域の快晴と三十度を超える天気図が映し出されていて。
クーラーの稼働していないこの部屋の気温は時間と共にぐんぐんと上昇の一途を辿っている。
窓を全開にして扇風機を最強にしていても汗は流れる事を忘れてはくれない。
暑いと言う割りに涼しげな潤君。
どうしてかしら? と疑問に思いながら顔を見つめていると、察したのか呆れたように答えてくれた。
「慣れただけだ。本当はすごく暑い」
「ど、どうして解ったの?」
「頭の上にクエスチョンマークと鳥がピヨピヨいたから」
「もう……」
実際に見えたんだからしようがない、と言わんばかりだけど、暑くてそれを言うのですら面倒くさいって感じ。
それなのに大きい体をのそのそと動かして私の後ろにくると、そのまま腕を前に回して抱きかかえた。
立てた足と足の間に納まると安心する。
部屋の中で二人きりなのと夏だという事で、普段より露出の多い部屋着の私達。
自然と肌と肌が触れ合う事になる。
「お前、冷たいな」
「そう? 自分じゃ判らないわ」
「冷たくて気持ち良いよ」
そう言ってもっときつく抱き寄せるのだけれど。
私の首と背中の境の辺りに顔を埋めるのだけれど。
「ショッピングセンターに涼みに行かないか?」
「人が多くて怖い……」
「一人じゃないだろ」
そのまま喋るからくすぐったくて。
その優しさがくすぐったくて。
「行く前にシャワー、浴びない?」
「水なら良い」
「そうね。準備するわ」
準備の為に解放されると、残るのは少しの寂しさ。
潤君が先に私を好きになったらしいのに、いざお付き合いを始めるとくっついてくる事なんてないから、さっきのような時間が愛しくもある。
はしたないと思われるかもしれないけど、好き合っている若い男女がくっついていたのだから、もうちょっとそういった雰囲気にならないのかしら?
ならないのか、しないのか、出来ないのか。
そういったところも含めてきっと好きになったのよね。
昔の私に伝えたいわ。
杏子さんの他にも好きな人が出来て。
その人に会えない時はとても胸騒ぎがして、杏子さん以外の人を大切に想う日がくるのよって。
信じられないでしょうね。
今でも杏子さんは大好きだけれど。
あの頃は杏子さんの事しか考えていなかったし、考えられなかったし、それで良かったのだから。
昔の私に自慢したいわ。
潤君という好きな人が出来て。
杏子さんといられる幸せと潤君といられる幸せの共存があるのよって!
「俺は後でいい」
体勢を変えて座り直して扇風機の風を自分に向けて、風で煙草が吸えないせいか仏頂面でテレビを見ながらぽつり。
恥ずかしいのかしら?
一緒にお風呂に入った事がないわけでもないのに。
お互いの裸を知らないわけでもないのに。
それなら、と湧いてきたのは親切心と悪戯心と愛情。
親切心は潤君に言い訳を。
悪戯心は潤君にからかいを。
愛情は私のストレートな本音を。
それらを我侭と言う名の勇気で以って、たった一言で。
「ねえ、一緒に入りましょ?」
壊れたクーラーと、再確認した幸せと、赤くなった顔と、二人で浴びる水のシャワーと。
そんなある夏の日の出来事。
作品名:somerday oneday 作家名:ひさと翼