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うたた寝

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「それを寝不足って言うんだ。寝ろ」
 有無を言わさず僕の頭を、彼の胸の上に押し付けられた。もがいた末に顔を上げるとまた顔を胸の上に押し付けられる。それを数回繰り返した上で彼がなんとか諦めてくれた。
「待ってよ。昨日ちょっと睡眠時間を削っただけだ。今だって眠くないし、別に今わざわざ寝る必要だってない。大丈夫だよ」
「でもくまができているってことは、寝不足ってことなんだろう?」
「確かにそうだけど……でも、アイクは気にしなくていい」
「駄目だ、寝ろ。あんたが貧血を起こして倒れでもしたらどうするんだ」
「そんな倒れるだなんて大げさな……」
「よく無理をするあんたならやりかねない。だから言っている」
 そうきっぱりと言い張られた。あんまりにもそうきっぱり言われるものだから、なんだか僕が悪いことをしているみたいだ。いや、彼にとっては十分悪いことなんだろうな。本当になんでもないことなのに。
 ばつが悪くなってしまったから、さっきあれだけ腕の中でもがいていたのに、顔を隠す為に彼の胸の上に顔をうずめる。
「あんたはずるい人だな。恨まれてるかもしれないぞ」
 頭の上から声がしたので顔を上げる。すると、武骨な手で僕の髪を梳かれて、
「それだけあんたは綺麗な顔をしているのに、そんな下らない無理をしてくまを作るなんて、もったいない。あんたの綺麗な顔に嫉妬している奴だっているだろう。だから、ずるいって言っている」
 そんなことを言われるだなんて思っていなかった。彼は自分や他人の身なりにはあんまり関心のない人だから、そういう、綺麗な顔がもったいないなんてことはほとんど口にしない。
 ――ただ、ただ僕は知っている。彼は時たま僕に向かって、さも当たり前のようにさらりと口にするのだ。「綺麗だ」と。それと同時に、彼は嘘やおべんちゃらを嫌う人だから、その言葉が本当だということも、僕は知っている。
 別に綺麗な顔だなんて彼に言われるのは初めてのことじゃない。勿論自分じゃそんな自覚なんてないのだけれど。ただその、そう言われるのは慣れないのだ。
 別に小さい頃から綺麗な顔だとはよく言われた。だからそういうことをお世辞でもそうでなくても、笑って受け流すことは出来るはずではあった。でも彼が言うときだけは違う。他の人達にはそうしたように、ありがとうとでも言って笑って受け流せばいい。でも、彼の時だけはそれが出来ない。頬の筋肉が上手く動かなくていつもみたいに笑うことが出来ないのだ。いつもその代わりに頬が赤くなって、なんだか体がむず痒くなる。
 今だって、僕は顔を真っ赤にしている。どうして彼に褒められることだけは、いつまでたっても慣れないのだろう。
「わかったならあんたは寝ろ。俺が起きていてやるから」
 そう言ってまた彼が僕の頭を自分の胸の上に押し付ける。今度は僕も抵抗もしなかったし、何も言わなかった。多分、恥ずかしくて何も出来なかったというのが正しいのだろうけれど。
「寝るから……」
「なんだ?」
「寝るから、起きていてくれよ」
「……ああ。わかってる」
作品名:うたた寝 作家名:高条時雨