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草壁は見た(Reborn!雲骸+10短編)

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【草壁は見た】
※十年後別未来妄想
骸は2〜3年で牢獄から出た設定。










「おや、もうそんな時間でしたか」

ふぅ、とため息をついた男が三叉槍を収めると、急に周囲の緊張が解けたような気がした。
そう感じたのはこの「恒例行事」を止めに来た草壁だけなのかもしれないが、現実は確かに「彼ら」の戦闘状態は解除されつつあった。

男がこの雲雀の屋敷にやって来る度に始まるので、最初に応対するのは草壁と決まってしまっている。
今日も、せっかく資料の整理をしていたというのに―――半ば無理矢理のような形で呼ばれてきた。
無論これを止められる者はそうそういないと理解はしていたので、文句をいわずにこうしてやってきたのだが。

「毎回毎回、きっちり十五分後に来るんですね」

「…止めるな、と言いたい所だけど。僕も予定が崩されるのは本意じゃない」

言いながら、ようやく草壁の主たる雲雀が愛用の武器であるトンファーを袖に収めた。
そんな雲雀の様子を見てから、くふふ、といかにも奇妙な笑みを草壁に向けてきた男はとっくに戦闘態勢ではなく、更に言うなら彼も雲雀も戦闘に向いた服でさえない。

「言っておくけど、お茶請けに洋菓子は出さないから」

雲雀は、広い部屋にぽつねんと置かれた座布団の僅かな乱れを直してから、客人に勧めるよりも先にそこへと座る。
客人も、さすがに雲雀の客人というだけあって只者ではない。
彼と同じ様に座布団を簡単に直してから座ると、何事もなかったかのように寛ぎ始めた。

(…毎回思うが、恭さんは一体何がしたいんだ)

座ったらすぐに仕事の話をし始めた彼らに背を向け静かに退室しながら、草壁は深いため息を吐く。
彼らの戦闘は、もはや本当に恒例行事と化しているのだ。

しかし、毎回今のように十五分経過してから止めに向うと、まるでそれが決まった合図であったかのように戦闘を止めにして、すぐに仕事の話へと移行していく。
イタリアマフィア・ボンゴレファミリーが誇るドン・ボンゴレの直属部下(とは本人達は決して認めないが、社会的には、の話だ)―――「雲の守護者」雲雀恭弥と「霧の守護者」六道骸の、奇妙なコミュニケーション。
出会うたびに行われているから、ある種の「挨拶」といえるかもしれない。
そしてその挨拶は、見事に何も壊さず、汚しもしない。
最初こそ、霧の守護者たる骸が何かの力で誤魔化しているのかもしれないと思っていたのだが、草壁が見る限りでは、彼らは何か特別な力を使っている様子はない。
それこそ十年前とは比べようもないくらい技術が進んでいるというのに、彼らは「挨拶」においては、そうした技術を一切用いないのだ。

「今日の客人は霧の守護者だ」

「へい」

伝えるなり、妙な含み笑いをした部下が早速茶菓子の準備の為に下がっていく。
妙な笑みを浮かべたという事は、彼は霧の守護者の好みを−−−チョコレートを好むという事実を知っているのだろう。
普段ここに来る客人へ振舞う菓子は、どんな人物であれ雲雀が好む和菓子の類だ。

しかし、霧の守護者…骸がやって来た時は、その不文律が破られチョコレート菓子が用意されることになっている。
それは、以前渋い抹茶菓子が出された際に今までにないくらいに骸が拗ねたから……では決してなく、雲雀の行動によるところが大きい。
その拗ね方というのも傍目からは全く分からなかったのだが、当時の雲雀が証言するには、彼はこの上なく拗ねていたのだそうだ。
そして、そのように拗ねていた彼に対し、雲雀自らが口直しのチョコレートを投げ寄越した。
故に、この財団内において「和菓子を茶請けに出す」という不文律は、霧の守護者にのみ不適用となったのだ。



















「…そろそろやめにしませんか?」

洋菓子は出さないから、と言っていたことを何処で聞いていたのか、何処からともなくチョコレート饅頭を用意してきた部下に心の中で感謝しつつ扉を開けようとしたら、面白がっている風な骸の声が耳に届いた。
一体何を止めるのか。
思わず聞き耳を立てると、それはどうやら彼らの「恒例行事」…挨拶代わりのあれのことを言っているらしい。
てっきり、霧の守護者も望んでやっているものと思っていただけに、草壁は驚きを隠せなかった。
しかし――――それ以上に雲雀の切り返しの方が強烈だった。



「どうして」

「部屋は壊しませんし迷惑もかけてはいませんが、無意味ではありませんか?」

霧の守護者の主張は尤もだった。
確かに部屋は壊れないし、二人きりになった途端に始まるものだから迷惑にもならない。
しかし、草壁が止めに来るまで続くそれは、タイムロス以外の何者でもないのだ。
刻々と状況が変わっていく中、たった十五分とはいえ無意味な時間を過ごすことは得策とはいえないだろう。

「意味ならあるよ」

しかし、そんな骸の言葉に納得するどころか、意味はあると言い出した。
骸も意外だったのか、続けようとした言葉を飲み込み彼の言う「意味」を問いただす。
すると、雲雀は珍しく、僅かにだが笑みを向けた。
こちらに背を向けている霧の守護者と、そして襖を半開きにしたまま固まっている草壁に視線を持っていくと、詩歌でも詠うかのように続ける。

「こうすることで、僕が勘違いをしないで済む」

「……意味が分かりかねますね」

「僕が今キミに抱いている感情は恋愛感情じゃない、と思えるって事だよ」

この時の衝撃を、恐らく草壁は一生忘れないだろう。

霧の守護者がどう思ったかは分からないが、この男に標的にされたのなら、彼の未来は概ね限られてくる。
近いうちに来るかもしれない未来を思いながら、草壁は何事もなかったかのように半開きだった襖を静かに開け放った。