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それは秘密

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 ごめんねー風丸君、起こしてきてくれるー?と申し訳なさそうな友人の母親に、作り笑いでいいえ、と答えながら2階への階段を上がる。すぐ手前のドアを開くと、まだカーテンが引かれたままの薄暗い部屋の片隅、ベッドにはこんもりと一人分の膨らみがある。
「えんどー」
 この程度の呼びかけで起きないことは長い付き合いでわかっているけれど、僅かな期待で呼びかける。ベッドの中の物体は寝返りを打つことも無く、そのままじっと呼吸に合わせて布団を上下させていた。眠りが深い。
「疲れてるのはわかるけどさ、お前が遅刻じゃ務まらないだろ、キャプテン」
 ベッドに腰掛けて顔を覗き込む。すーすーと寝息は穏やか、全くこちらに反応する気配なし。まさに熟睡!
「今日はどうすっかなー」
 昨日は鼻をつまみ、一昨日はシーツごとひっくり返し、一昨昨日はカーテンと窓を開いて寒さで訴えて起こしてきた。一番反応が良かったのはシーツごと、だったかな。
 朝から疲れるので面倒だけれども、溜息を一つつくと立ち上がる。シーツの端に手をかけて、一気に、と思えば何かがひらりとシーツの間から零れ落ちた。
「なんだこれ」
 一旦シーツから手を離し拾い上げる。裏返しになっていたものを、ひっくり返せば見慣れたものが写っていた。毎日鏡で見る、自分の姿だ。
「なんで俺の写真?」
 くるくるとひっくり返す。枕元に入れると夢が見れるとか?いやいや俺の夢見てどうすんだよ、と突っ込みながら写真をじっくりと眺める。視線が少しおかしい。よくよく考えれば、こんな写真を撮られたことがあっただろうか。
 こんな、上半身裸で水を被っているような。
 下は履いているが、これはサッカー部のものだ。練習後に汗を流そうと水を被ったことは確かにあったから、写真はその時音無にでも撮られたのだろう。けれど、どうして円堂がこんなものをベッドに?
 なんだかもやもやして落ちつかない。なんとなく恥ずかしくて顔を背けると、ふと、ベッド脇のゴミ箱が視界に入った。円堂にしては珍しく、お菓子の袋ではなくティッシュが一番上にたくさん捨てられている。
 丸められたティッシュと、自分の上半身裸の写真。
「は、はああああああああ!!!!?」
 ありえないそんなバカなことあってたまるはずがない。気持ちに先行して口が開く。自分でも思わなかったような声が出た。
「はああああああ!?あっ!?何?なんだ!?」
 声に反応して円堂が飛び起きる。慌てて写真をどうにかしようと思えば手から滑ってひらひらと二人の間に落ちた。寝ぼけたままの円堂がぱちぱちと瞬きをして見詰めてくるのに唇を無理やり持ち上げて写真を踏んで隠す。
「お、おはよ、円堂」
「あ、ああーおはよーってさっきの風丸か?どうした?なんかあったのか?」
「い、いや、別に何も」
「何もってことないだろ」
 立ち上がって円堂が詰め寄ってくるのに一歩後退る。それでも追い詰められるのに、写真を踏んでいた足がつるりと滑った。
「あっ」
「わっ」
 円堂が慌てて手を伸ばしてくるが、そのパジャマの袖を掴むのが精一杯で、二人して床に倒れこむ。背中を打ち付けてずきずきと痛んだ。
「いってー」
「大丈夫か風丸!」
「ああ、背中打っただけだ……心配するな」
「ならいいけど、足は捻ってないか?」
 上に被さる円堂がくるりと足を見る。しかし次の瞬間、急に動きが止まった。そろそろと足首、爪先に触れ、かさりと何かを持ち上げる。
「か、風丸、見た、のか」
 ぎこちなく首を戻して問われる。
「み、見てない」
「見たんだな」
「だから、見てないって」
「何をって聞いてこないだろ」
 しまった。こんな時だけ鋭いなんて。どう答えればいいのかわからず、がくりと項垂れるように頷いた。
「やっぱ、見た、よな……」
「ごめん、落ちてきて……なぁ、その写真どうしたんだ?」
「ああ、春奈がくれたんだ」
「そうか……」
「ああああああのさ!」
 被さっていた体が飛びのく。足元で正座をし、円堂は床に両手を付いた。まさか、と思う間も無く、頭を床に擦り合わせる。
「ごめん使った!」
「使った、って……」
「お前で抜いた!」
 はっきりと聞こえた言葉に、頭に血が上りかーっと耳まで熱くなる。かもしれない、と思っても実際に聞かされると想像を上回る衝撃に口をぱくぱくと何度も開いたが声になるのは意味を持たない言葉だった。
「なななななななな」
「わ、悪かったって思うけど、色々使ってみたんだけど、一番抜けたから、何度か……」
「一度じゃないのか!?」
「この写真貰ってからは、ずっと……」
 ちらりと窺うように円堂が顔を上げる。どうしようもなく恥ずかしくて視線を逸らす。うう、と円堂が項垂れているのはわかってはいるけれど、どうしようもない。
「ごめん、嫌だったよな」
「嫌じゃ、ない、けど、さ」
「嫌じゃないのか!?」
「あ、ああ、それは」
 まず最初に気付いたときも嫌悪よりも驚きが上回った。少し冷静になった今でも、嫌と言うよりも恥ずかしいが上回る。つまり、どれだけ経っても嫌ではないのだと、自分でも気付いていた。
「嫌じゃないけど、恥ずかしい」
「そうなのか?」
「うー……円堂、一枚写真寄越せ」
 首を傾げる円堂に手を差し出す。はっ?と驚いた円堂に写真、と念を押すように言えば、いっぱいあるだろ、と返された。
「俺のじゃないお前のだよ!俺もお前で抜いてやる!」
「はああああ!風丸何言ってんだよ!」
「いいから寄越せ!脱いでるヤツな!」
「ねえよそんなの!」
 飛び掛ると円堂が写真を逃がすように飛びのく。
「駄目なら写真返せ!」
「駄目、まだ使いたい!」
「はああ!?何でだよ!」
「嫌じゃないんだろ!」
「嫌じゃないけど恥ずかしいって言ってるだろ!」
「じゃあ!」
 もつれ合いながら転がる。ゴンと頭を壁に打ち付けて痛みに丸まると、上から何かに圧し掛かられた。何か、が何であるかはわかりきっている。
「本物じゃ、駄目、か」
 円堂の顔が真っ赤に染まっている。恥ずかしいことを言っている自覚はあるようだ。
「上等」
 笑いながら手を伸ばす。さりげなく、さりげなく。円堂の右手に指を這わせ、写真を──
「ん!」
 抜こうとすれば、急に視界が暗くなり、唇が塞がれた。一瞬のことですぐに離れていったけれど、呆然としてしまい何も奪えなかった掌を見詰める。
「これは、駄目だって」
「円堂……」
 立ち上がった円堂がひらひらと手の中の写真を見せ付ける。ぐいと触れられた唇を拭うと、立ち上がり再度奪おうと足を踏み出したところで、がつんと背中に衝撃が走った。
「あんたたちいつまで暴れてんの!」
 ドアを開き顔を覗かせた円堂の母親に、反射的にすいませんと頭を下げる。円堂もごめんと笑っていた。
「さっさと着替えて降りてらっしゃい!」
「はあーい。着替えるから、風丸先に行っててくれよ」
「あ、でも」
「いいのよ。ごめんねー風丸君、リンゴ食べる?」
「い、いえ、お構いなく!」
 円堂の母親に連れられるように部屋を出る。振り返れば、円堂が机の引き出しに写真をしまっているのが見えた。いつか、奪い取ろうと心に誓って背を向ける。
 これからのことは、すっかり忘れていた。
作品名:それは秘密 作家名:なつ