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 静かな廊下に規則正しい靴音を響かせて歩み寄ってくる。その足音を聞き間違えるはずはないだろう、と成歩堂は苦笑しながら片手を挙げた。
「よ、御剣」
「ム」
 すぐ側で歩みを止めると軽く会釈をする。律儀だなぁと成歩堂は笑って御剣の肩に軽くポンと手を置いた。御剣はむむ、と眉を寄せるが何気なさを装ってそのまま肩を組み耳に顔を寄せる。
「あのさぁ、次の日曜暇?」
「次の日曜…?」
 囁くように尋ねた言葉を一度鸚鵡返しで返した後、御剣は大きく腕を振って成歩堂の手を振り払った。それから少しだけ下がり、脇に抱えた鞄を開いた。手帳を取り出してざっと広げ、何枚か捲って目当てのところまで到達したのかその手が止まった。
「次の日曜は…うむ、確証は持てないが、多分なんとかなる」
「無理はしないでいいよ?」
「いや、それほど無理でもない。なんとかしよう」
「そう。ありがと。じゃあ空けといてね」
「心得た」
 手帳付属のペンを取り出してさらっと何かを書き込み、ペンを戻してパタンと御剣は勢い良く手帳を閉じた。その弾みでかひらり、と何かが手帳から落ちる。
「ん?」
「あ」
 地面に落ちたそれを御剣が拾うよりも早く成歩堂が拾い上げ、まじまじと見ていたのに御剣は僅かに顔を強張らせた。それを見ていた成歩堂の表情も約束を取り付けられた嬉しい顔から難しいものに変わる。
「…何コレ」
「……見ての通りだ」
「見てわかんないから聞いてる」
「…犬と、子供だ」
 溜息のように吐き出された言葉に成歩堂はきっと御剣を睨んだ。確かに手にした写真には春美くらいの年頃の女の子と犬が公園で戯れている姿が収められていた。
「ぼくの質問の意図くらいわかってるよね?」
「…知り合いの親戚の子供だ」
「どんな知り合い?って言うか親戚って随分関係無いところだよね?」
「…成歩堂」
 御剣が目を細めて溜息を吐く。なんだか憐れに思われているようで気に入らない。
「なんだよ」
「…もう一枚、ある」
 手帳を開いて御剣はすっともう一枚の写真を取り出し、それを成歩堂の目の前に突きつけた。いきなりアップになった写真に一瞬吃驚したものの成歩堂はその写真に収められていた人物に声を無くす。
「…狩魔検事」
「そうだ。メイの姉の子だ」
 御剣が突きつけた写真には、先ほどの少女と犬の他に、法廷よりもずっと地味(でもフリル付き)な服装で狩魔冥その人が写っていた。こうして見ると18歳そこそこの少女らしく見える。
「…でもなんで御剣がそんな写真を?」
「見てみたくなってな。送ってもらった」
「何を?」
「犬」
 きょとんとしている成歩堂を尻目に御剣はさっさと突きつけた写真と成歩堂の手にある写真を奪うと手帳に挟む。それから一寸だけ逡巡してポツリと呟いた。
「…孫の、恋人かと言われたな」
「あ、あー…ええ!この犬?もしかして、名前」
「その通りだ」
 閉じた手帳を鞄に戻しながらにやり、と御剣が笑ったのに少しだけ気恥ずかしくて成歩堂は頬を赤らめた。
作品名:写真 作家名:なつ