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宴会

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「きいているのかーぁ?なるほどぉー?」
 妙に舌足らずな声でぐだぐだと管を巻く友人をちらと見下ろして成歩堂は溜息を吐いた。
 うるさい酔っ払い、頼むから黙ってくれ。もしくは寝てくれ。
「聞いてるよ」
「んーでなー…どこまで話したっけ?」
「中学の時付き合ってた年上の話だ」
「ん、ああ、そうそう」
 いっそ忘れてくれたままでいれば良かったのに。
 余計な助け舟を出した御剣を成歩堂は恨めしそうに睨んだけれど御剣はどうでもよさそうに窓の外を眺めてビールをぐいと飲んでいた。
 窓の外から微かに祭囃子が届く。どこかで盆踊りでも開かれているのだろうか。
「でさーぁ」
「…盆踊りと言うものは」
「御剣?」
 舌足らずな矢張の言葉に被るように御剣が呟く。独り言のつもりだったのか、酔いに任せた言葉なのか呼びかけた成歩堂に振り返りもせずにまたビールの缶に口をつけた。
「盂蘭盆に先祖の霊が帰って来る、それを喜び祭るものがそもそもだと思うが」
 またビールをぐい、と飲み空になったらしくそれを無造作に足元に置いてやっと振り返った。
「…矢張は眠ったのか」
「え?」
 そう言われれば御剣が話し始めて以降静かだった矢張は小さく丸まって眠っていた。窓から入る風が少し冷たいのか時折寒そうに体をぎゅっと抱えて、それでも起きない。
 足元にはビールの空き缶が7本。カン、とそのうち一本が蹴られて転がり2本巻き込んで倒れた。
「矢張、布団敷いてやるから」
「んんー?オレは寝てないぞー」
「はいはい。わかったから。御剣布団頼む」
「ん」
 曖昧に頷いて御剣は立ち上がった。その足元が少しふらついていたのを成歩堂はあえて見なかった振りをして矢張の肩を叩く。起き上がったところで後ろから脇に手を差し込み、引きずる。
「いたいぞー」
「はいはい。もう少しだから」
 なんとか寝室の入り口まで到達する。ドアは御剣が開けっ放しにしておいてくれたおかげで開かず入れたけれど、中では御剣が敷いた布団の上で丸まっていた。
「…御剣、起きてるか?」
「ん、起きているとも」
「だったら、退いてくれ」
 溜息を吐くと御剣が起き上がる。恨めしそうに睨んでくるけれどはいはい、と受け流して成歩堂が顎で矢張の足を持つように指示を出すと素直に従った。
 二人で一旦宙に浮かせて、布団の上に投げるように落とす。いてえーと矢張は呟いたけれどすぐに夢の世界へと落ちて行った。

「矢張は、いつもああなのか?」
「ん?ああ、そうだな。基本的には酔いつぶれて寝るかな。ぼくもそうだけど」
「そのわりにはおまえは余り酔ってないようだが」
「御剣こそ」
 床に散らばる空き缶を集めていると御剣が窓の側で水の入ったコップを片手に涼みながら尋ねてくるのに苦笑しながら答える。御剣は尋ねたものの興味無さそうにまあな、と曖昧に頷いてすぐに窓の外へと視線を向ける。
 まだ、祭囃子が聞こえる。
「…そう言えば、盆、が何だっけ?」
「何の話だ」
「御剣が言ったんだけど。うらぼんがどうのこうの」
「ああ、盂蘭盆か」
 水に口をつけて微かに溜息を漏らして、御剣は振り向いた。静かな笑みさえ称えているのに成歩堂は顔が熱くなるのを感じて頬を押さえた。指からビニール袋の持ち手が外れ、カランと音を立てて集めた空き缶がまた床に散らばる。
 それを見て御剣が僅かに眉を寄せる。
「何をしている、成歩堂」
「あ、ああー。…まあいいや」
 また明日にしよう、と成歩堂は呟くと御剣の隣に腰を落とす。夏らしく茣蓙を敷いた床は気持ちよい、と言うか少し寒い気までしてくる。火照った体には丁度良かった。
「で、盆祭りがどうかしたのか?何か言いかけてたけど」
「ああ、昔こんな人が居たそうだ。私が死んでも悲しまないで花火を上げて祝ってくれ、と」
「へえー。凄いなぁ」
「真宵君や春美君を見ていると不思議に思う。霊とはそんなにも身近な存在だったかと」
 ふ、と笑って御剣は窓の外を見た。パアン、とロケット花火か打ち上げ花火か、何かが弾ける音が響く。祭囃子はもう届かなかった。
 時間を確認しようと成歩堂は御剣の横顔から視線を逸らす。壁掛け時計は9時を過ぎたばかりの時間を示していた。
「…私には会えない」
「御剣」
 呟くような言葉に御剣を見た。けれども御剣は手にしたコップに口をつけて一気に水を飲み干したまま、ゆっくりと何もかもを遮断するかのように目を閉じた。
作品名:宴会 作家名:なつ