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引きこもる宍戸とさよならする鳳

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あの日夕方の日の光に包まれて、踏み切りの向こう、おまえが言った「さよなら」にまだ縛られたままでいる。



ひとりきりの部屋の中、停滞した空気の中をゆるゆると煙草の煙がうねる。それだけがこの部屋で動いているものだった。煙草など吸わない、あの頃俺はそう言っていたけれど、ここにはもうあの頃の俺はいない。

2ヶ月。2ヶ月のあいだ、俺は部屋から出ていなかった。締め切った窓の外に見える太陽はガラス越しにもギラギラと眩しくて、余計に俺の外へ出ようという気を削ぐ。心身共に健康で、自他共に認める体育会系だった俺は、何ヶ月も部屋に篭りっ放しなんてそんなことが出来るはずないとずっと思っていたが、以外にもまったく外に出ない生活は俺にとってなんら苦痛にはならないようだった。買い物だってここから一歩も動かずすることが出来る。便利な時代だ。外に出ようが出まいが、生きることに支障はなかった。問題は体がなまってしまうことくらいだったが、それすら今の俺にとってはどうでもいい。



「終わりにしましょう」あいつがそう言ったのは、日差しの暖かい日も増えてきた、冬の終わりだった。俺たちがいわゆる「付き合う」という状態になったのは、たしか1年前の冬のことだった。最初はただ、よくわからない焦燥や、無意味に訪れる虚無感を忘れたくて、近くにいた奴に手を伸ばしてみただけだった。誰でもよかった、いうなれば。それが変わりだしたのはいつだったろう。触れることに違う意味がともないだしたのは、いつだっただろう。

「終わりにしましょう。俺たち、このままじゃダメになると思います」あの日、ふたりでいつものようにぶらぶらと歩いて帰る道の途中、踏み切りの手前であいつは急に立ち止まってこう言った。「・・・は?」すでに踏み切りを渡り始めていた俺は、突然かけられた言葉の意味が捉えきれず、振り返ってそう聞いた。「だから、終わりにしましょうって言ったんです」「・・・なんで」「だから、」ダメに、なってしまうからです。そう言ってあいつはうつむいた。うまく気持ちを言葉に出来ないときうつむくのはあいつのくせだった。いつもなら、俺はあいつがまた話し出すのをゆっくり待つことにしていた。けれど何故だか、そのときはダメだった。ずっと、あいつと付き合いだしてからずっと忘れていた焦燥が、俺の胸を占め出していた。

「・・・ダメって、なんだよ」俺は、たぶんとても不機嫌な調子で、そう言った。それにあいつは少しびくついたようにして、「それは・・・ダメというか、その・・・」「なんだよ」そして覚悟を決めたようにぐいと顔を上げてこう言った。「俺は、宍戸さんのことが好きでした。もう、ずっと前からです。でも、宍戸さんは俺のことなんか好きじゃない。それでもいいと思ってました。俺は、宍戸さんのそばにいれたら満足だから、それでいいって・・・でも」そうじゃなくなってしまった、と、またうつむきながらあいつは言った。

「宍戸さんが、俺を選んでくれたこと、すごく嬉しかった。中学の頃に、特訓の相手を頼まれたときより嬉しかったかもしれません。俺の気持ちがやっと伝わったんだって、すごく嬉しかった。けど、そしたら俺、なんかすごく不安になっちゃって。宍戸さんが俺を選んでくれたことと、俺のことを好きかどうかが、ほんとに関係してるのか、とか。宍戸さんが俺のことを好いてくれてるのかがすごく、気になるようになってしまって」

「わかってるんです」そうあいつは、まるで俺に口を挟ませまいというかのように継いだ。「宍戸さんがそういうものを俺に求めてるんじゃないってことも。俺たちはそういうんじゃないってことも。ちゃんとわかってるんです。でも、俺、このままだとどんどんわがままになってしまう。宍戸さんにもっとちゃんと愛されたいと思ってしまう。このままじゃいけないと思うんです。俺たち、」このままじゃダメだと思うんです。そこまで一気に言い切って、奴はまっすぐに俺の瞳を見た。「さよならしましょう。宍戸さん」

そして俺は、あいつの言葉に何ひとつ言い返すこともせず、家に帰ったのだ。家に帰って、そのまま家から一歩も出なくなった。何故こんなにも何もする気が起きなくなったのかは自分でもわからない。ただ、その日から俺は家に引き篭るようになった。外に出ず、学校にも行かず、すべてを放棄して、ただ家の中でひとり殻に篭る日々を過ごすようになった。なにもかもどうでもいい。急激な虚無が俺の胸を支配していた。

ひとりで部屋に篭り続けていると、ほとんどの感覚が麻痺してくる。そのかわり頭の中を占めるのはあの日「さよなら」を告げたあいつのことばかりだ。

本当は、あの日俺はきちんと言わなければならなかったのだ。「おまえのことが好きだ」と。たとえ言い訳に聞こえたとしても。俺は言わなければならなかった。おまえの言うようなことばかりでおまえとこうしているわけじゃないと。俺はおまえが好きだからいっしょにいるんだと。まだいっしょにいたいんだと。感覚の麻痺した頭の中で、あの日言えなかった言葉がぐるぐるとまわる。今からでもきっと遅くは無い、電話をかけろ、好きだと言うんだ。そう、俺の頭の隅から声が聞こえる。けれど今の俺には電話をかけることさえ出来ない。今の俺では太陽に負ける。おまえに会えない。こんなんじゃ。そうして今日も1日が終わる。



あれから2ヶ月経った今でも、俺はあの日、夕方の日の光に包まれて、踏み切りの向こう、「さよなら」を言ったおまえに縛られたままでいる。