あなたが疎ましいのさ
**
酒を何本あけたかのころにぼやきはじめた臨也が、何本目かのビールに手を伸ばしそうになった手をつかんで「それくらいにしとけよ。」と制止する。ここは臨也の家である。静雄は「いい酒があるんだけど飲みにおいでよ」と誘われて一時間ほど前にここを訪れた。臨也はこっちをぎ、とにらみつけて、叫んだ。
「はなせよ。ほんと空気よめないやつ。」
臨也はそれだけいって机につっぷした。ごろごろ、と頭をすりつけてまた言葉を発し始める。
「ていうかシズちゃんなんで飲んでないの。」
「飲んでる。」
「嘘、素面じゃん。くっそ、まじ空気よめ。」
そんなふざけたことを言いながら臨也は時計をちら、と見た。俺はそれをみて、あ、終電か、とふと思った。それで皿をまとめはじめようとすると袖のあたりが重い。臨也が袖をちょこんとつまんでいるのだ。
「邪魔だろ、片づける。」
「片づけなくていいから。」
泊まっていって。
その声が、久しぶりに心細そうに響いたのを、俺はああ、と感動がこもりながらきいたのを覚えている。
作品名:あなたが疎ましいのさ 作家名:桜香湖