小さい頃の高杉とヅラの話
ある夏の日。
その日は日射しが強くて、外を少し歩くだけで汗が吹き出し、頭がくらくらする…そんな天気だった。
だが高杉はそんなのに負けてはいられなかった。
尊敬する松陽先生の授業を最前列で聞こうと、今日も授業が始まる何十分も前に村塾に到着していた。
高杉が定位置についてすぐ、女みたいに髪を長く伸ばしている、見た目も性格も鬱陶しいやつがやってきた。
高杉はいつもわけの分からない質問ばかりして先生を困らせている彼が嫌いだった。
そんな風に困らせてばっかりなのに、先生は彼を「勉強熱心なんですよ」と言って誉めていた。その時高杉は彼がもっと嫌いになった。
だけど、先生が「皆と仲良くしなさい」と言っていたので、無視はしない。
「…何だよ、聞きたいことって。」
高杉は「今日も暑苦しい髪型しやがって」と心で呟きながら、桂の方を向いた。
「ああ、この間先生に連れられてきた、銀時ってやつのことなんだが…」
桂のいう“銀時”というのは、ちょっと前に先生が連れてきた、正体不明のモジャモジャ頭の少年である。
理由はよく分からないが、彼は先生に特別扱いを受けているように見えるので、高杉は銀時が嫌いだった。
「あいつがどうしたんだよ。」
高杉がそう尋ねると、桂は深刻そうな表情を浮かべる。
数秒間何かを躊躇うように口ごもったあと、ゆっくりと口を開いた。
「あいつ…妖怪じゃないかと思うんだ!」
桂はそう一気に言いきると、高杉のほうを真っ直ぐに見つめた。
「……お前バカじゃねーの?」
桂は、変わった子供だった。
何もない場所で一人でぶつぶつと会話を始めたり、一般的な目から見ると気持ち悪いものを「かわいい」と言ったりしていた。
「ば…バカじゃない、桂だ!」
「お前なぁ、もし妖怪だったら先生がもう退治してくれてるはずだぞ!」
高杉ははぁ、とため息をつきながらそう言った。
「なに、先生は妖怪を退治できるのか!」
「うるせぇよ、ヅラ、ヅラ取れよヅラァ。」
「ヅラじゃない桂だ!」
「先生は強いんだ!妖怪なんてひとひねりに決まってるだろ!」
高杉がまるで自分のことのように誇らしげに答える。
すると後ろからクスクスという笑い声が聞こえてくる。
「小太郎も晋助も、想像力が豊かですね。」
「先生…!」
二人の前へゆっくりと移動すると、もう一度クスクスと笑い、
「銀時が妖怪だと思うのですか?」
と問いかけた。
「だって先生…あいつの強さは異常ですよ。」
桂が問いかけに答えると、松陽はフッと微笑み、
「ならば、直接確かめてきなさい。大丈夫です、もし銀時が本当に妖怪だったとしたら、私が何とかします。」
と言った。
その言葉を真に受け、本当に銀時に尋ね、二人が銀時からの迷惑そうな視線と松陽の笑い声を受け取ったのは、言うまでもないだろう。
【終】
作品名:小さい頃の高杉とヅラの話 作家名:千草