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つまり愛の仕業。

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「フェリシアーノ君、何を見ているんですか」
 いつもなら特有の鳴き声?や鼻歌で賑やかな彼が先ほどが何やら唸りながら1冊の本を読んでいる。その真剣さに思わず声をかけてしまったのは、先日の苦い思いがあるからか。聞いてしまってから、今の状況がその時と酷似していることに気が付く。もしこれで、あの時のように「俺の戦歴~」などと言いながら女性の写真を見せられてしまったら。あの時のように嫉妬に心を染め上げて、彼をはしたなく糾弾してしまうに違いない。彼の過去に罪はないのに、自分の浅ましい願望のために。
 鬱々とした感情に飲み込まれかけた菊を呼び戻したのは、フェリシアーノの明るい、それでいて少し困った声だった。
「これ?これねぇ、昔の俺たちのアルバムだよー」
「フェリシアーノ君たちの?」
「俺もだけど、菊もだよ!ほら、ルートと3人でよく遊んでた時菊がいっぱい写真撮ってたじゃん?その時のだよ~」
「あぁ、そういえば…」
 言われてからよく見れば、確かにそれはかつて自分が撮影した写真をまとめたものだった。そんなことも忘れてしまうほど自分はボケていたのか、ああでも先日のことが、と思考がループしかけて、これはいけないとかぶりをふる。どうも最近マイナス方面に考えがちだ。暗い顔をしてたらフェリシアーノに心配されてしまう。
「また、懐かしいものがでてきましたね」
 ごまかすように話を振れば、ホントだよね~とフェリシアーノはいつもどおりほわほわとしていた。
「菊ってば、一緒に映ろうって言っても『私はカメコに徹するからいいです』って全然映ってくれなかったんだよねぇ」
 結局カメコってなんだったかわかんなかったんだけどさー。言いながらペラペラとめくられるページには、ルートとフェリシアーノが仲良く絡み合ってる写真(正確に言うならルートに絡んでるフェリシアーノの写真だが)がたくさん納められていた。それもそうだ、当時の自分はファインダー越しに恋をしていた。愛しいその笑顔を、せめて形に残したくてことあるごとにシャッターを押していた。例えその笑顔が直接自分に向けられることがなくとも、と。
 とはいえもはやなんやかんやで想いが通じ合ってしまった今ではそのことも甘酸っぱい黒歴史であり、思い出してしまえばむず痒くなる事実だったのだけれど。
「まぁ、私みたいな爺撮ってもいいことないですし。それに私は撮る方が好きですから」
「ヴェー!そんなことないよっ!」
 がばりと両腕ごといきなりハグされて一瞬菊の身体は強ばったが、もはや慣れたものですぐに無駄にはった力を抜いた。恋人からのハグは嬉しいけれど、急にもたらされるそれにはやはり驚いてしまう。テーブルに放置されたアルバムを見れば、珍しくフェリシアーノとツーショットの写真が貼られていた。ルートが気を効かせて撮ってくれたであろうその写真には、今と同じようにフェリシアーノにハグされて緊張に身体を硬めている自分がいて。
(私ってば変わりませんね…)
「なんか菊、変わったよね?」
「え?」
 思っていたことと正反対のことを言われ、フェリシアーノの顔を見ると、まじまじと写真と顔を見比べられた。
「そう…ですか?私はあまり変化ないと思うんですけれども…」
「うん、そんなには変わってないんだけど、なーんかちょっと違うんだよね~。さっきからずっと考えてたんだ、なにが違うんだろーって」
 そういってフェリシアーノはまるで間違い探しをするかのように菊の顔を見て、写真を見て、また菊の顔を…と繰り返した。いつになく真剣な眼差しに、かつハグされていることで密着した体勢に菊は鼓動が早くなる感じがした。
「髪…はいつもみたいに絹みたいにサラサラだし…目も丸くて大きくて宝石みたいだし…鼻…は小さくて可愛いし…」
 そのうえそんな、耳元で恥ずかしくなるような口説き文句を(しかも無意識に!)囁かれては、もはや白旗を降って降参したくなる。耳に心臓ができたみたいに大きく脈打つ音が聞こえる。ピッタリと身体がくっついているからフェリシアーノにも伝わっているだろうと簡単に予想できて、菊は頬を熱くした。
「菊、なんか心臓ばくばくしてる?」
「っ、それは…」
「えへへ~菊の顔、兄ちゃんちのトマトみたい♪」
「!…も、もう、フェリシアーノ君ってば…」
「ねぇねぇ、俺、キスしたくなっちゃった。していい?」
「……全く、もう…」
 仕方ないといった感じで瞼を閉じると、ふんわりと唇に柔らかな感触がした。口先でふにふにと唇を食まれ、舌先で表面を舐められれば、ひくりと肩を揺らしてしまう。そのままフェリシアーノは上唇に歯を立て、チュッと音をさせながら吸い上げた。
「あ」
 ふいに唇が離れて、フェリシアーノが呟く。瞳を開くと甘やかなチョコレート色が、長いまつ毛の合間からのぞいた。
「フェリシアーノ君?」
「わかった、何が違うか!」
 そう言ってフェリシアーノは人差し指で菊の口を塞いだ。
「唇、ちょっと厚くなったみたい」
 これっていっぱいチューしたからだよね、なんてほんわりと笑いながら言うものだから。わなわなと口を歪ませて言葉に詰まらせていると、怒ったと感じたのかフェリシアーノが困ったような顔をして、でも次の瞬間には嬉しそうに微笑んで。
「でも菊の唇って美味しいから仕方ないよね?」
 そういって再び落とされる口付けはどこまでも甘ったるくて、幸せな味がした。
作品名:つまり愛の仕業。 作家名:あく