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認めません、それだけじゃ。

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「月が綺麗だな」
 なんてことない、という体を装って呟く。その実、内心ではものすごい速度で心臓がなっているのだが。チラリと横目で見れば夜空よりも暗い色をした髪をなびかせて、空を見上げる本田。真っ直ぐ見つめる視線の先には薄黄色の月が浮かんでいる。その表情はいつものように優しげだ。月に照らされた本田は輪郭がぼんやりとしていて、まるで本田が月のように光ってるとさえ思える。思わず、月よりも本田の方が綺麗だと言ってしまいそうになる。
「そうですね、実に綺麗です」
 静かな夜に本田の紡ぐ柔らかい音が響く。顔を向ければいつのまにこちらを見ていたのか大きな瞳にかち合った。じっと見つめてくる墨色の瞳に、ますます動機が高鳴る。
(これは、伝わってる…のか?)
 今日は本田に告白しようと思ってここにきた。今まで何度もトライしてきたが、持ち前の意地っ張りと皮肉屋な面がどうしても「好き」の一言を言わせてくれなかった。仕方なく他のアプローチを考えていたところ、本田の国での愛の言葉を知ったのだ。これなら頑張れば言えるし、もしそっちの意味で取られなくても日常会話にすり替えられると思った。そして、今日にいたる。
 しかし言ってしまった後では全く考えが違った。せっかく苦労して、やっと言えた言葉なのだ。それが日常会話になってしまうなんて、耐えられない。とはいえ相手は空気を読む達人だ。きっと言葉の意味を正しく理解してくれるだろう。そうアーサーは思っていたのだが。
(……なんか、いつもと変わらねぇんだけど)
 ようやく紡いだ愛の告白も、わかっているのかわかっていないのか、曖昧に本田は微笑むだけだ。そのまま続く日常会話に、あぁこれ通じてねぇやと一人こっそり肩を落とすアーサーが、「ちゃんとストレートに言ってくれるまで認めませんから」と小さく呟いた本田の言葉に気付くことはなかった。