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傷の舐めあいではないと1

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*ジャン


寝て起きて。何度の昼と夜を経たのかわからない。生きている。俺は生きて。
ベッドの上で体を起こした状態の俺の手の甲が濡れる。涙が出るのは朝だけだ。
俺には身に余るほどの豪奢なベッド。俺たちは未だホテル生活を余儀なくされていた。そして。
あれが夢でなかったことを繰り返し認識して。
「ジュリオ・・・」
どうしたって取り返せなんかしない愛しい存在の不在を知る。
俺の生きている意味なんてなくなってしまった、と言うには重すぎる使命と義務が俺にはあった。
しかもそれはジュリオだって望んでいたであろうことだ。
わかっているからこそ、俺は死のうだなんて馬鹿なことは考えない。
ラッキードッグだなんて笑い種だ。大切な人間をその運に巻き込めないのならこんなの意味がない。
絶望の淵に立たされようとも乗り越えていける力が自分にはあると過信してた。だから、こんなことに。
そこまで考えて思考を閉じる。
考えても仕方ないことだからだ。
「ジャン」
ぐい、と腕で涙を拭ったらベルナルドの声が耳に入ってきて驚いた。
ドアを背にして立つその姿は少し疲れを滲ませている。
「な、んだよ。寝込みでも襲いに来たのか?」
それにしちゃ中途半端な時間だな、と腫れぼったい目で笑いかける。そうだ、俺はもう笑うことも出来るようになったんだ。
誤魔化しのような俺のそれに、ベルナルドの眉間には深い皺が刻まれる。
心配かけたくないという気持ちと、心のどこかで気にかけて欲しいという気持ちが揺らめく。弱っているからこんなことを考えちまうんだ。
こんなときジュリオなら、とそこまで考えて頭を振る。
仲間の集まる場に同席するのはさすがにまだつらい。
空いた席にいたはずの人間を捜してしまう。
並んだ顔ぶれに、あの顔がないことに気づいてしまう。
それが、嫌で。

最近は、体制を立て直すのに忙しい幹部たち、ルキーノとイヴァンとベルナルドについて仕事を覚えるという名目で外に連れ出される毎日だ。ボスになるには必要なことだと。
特にベルナルドと行動をともにすることが多かった。確か今日も。
同行する人間から励まそうという雰囲気は感じられても基本的に仕事に厳しい人間たちだ。いっそ今の俺にはこの状態がありがたかった。
何も考えずに仕事をして寝る。それが。それでも、朝は。

ベルナルドが近づいてくる。屈むとその髪が触れそうになった。
俺はひどい顔をしているんだろうな、と思いながらベルナルドを見上げる。瞼が重く感じて目を閉じた。
瞬きのつもりだった。けれど目を閉じて、開けようという瞬間には唇が塞がれていて。
「んっ・・・ふ・・・」
両肩を掴まれた。混乱するほどには頭が回らない。ただこれがジュリオじゃないことだけはわかってた。わかったうえで抵抗しなかった。
唇を重なってきて、舐められて。少しだけ舌が口の中を浚っていく。どうせなら奪うように強引にくればいいのに。何を遠慮してるんだ、とそこまで考えて今頭に浮かんでいる人間は誰だ?と自問する。
俺はベルナルドの肩に手を添えて、その体を押し返した。
ゆっくりと離れていく体と視界に入る長い髪。
「ベルナルド・・・」
確認するようにその名前を口にした。
「すまない」
そう言って眼鏡を直すのを見て、ああベルナルドだ、と認識する。
「俺にキスしたがるのなんかジュリオくらいかと思ってたよ」
はは、と笑えばベルナルドの顔が歪んだような気がした。
「俺だって」
「え?」
「俺だってずっとしたかったさ」
自嘲気味に言うベルナルドが、その体が俺の視界を塞ぐ。
起こしていたはずの俺の体がベッドに沈む。さすがにこれには焦った。
「ベルナルド?」
「何もしないから」
このまま、と小さく囁かれる。
体に回された腕が、俺を締め付ける。抱きしめられている。
身に迫るような緊迫感がないことはわかって。俺は体の力を抜いた。
正直、抱きしめられることは心地よかった。伝わってくる体温が気持ちよかった。それでも鼻をくすぐる匂いが、あの匂いではないことに涙が出そうになる。
「弱っているところにつけ込んで・・・悪いな」
謝罪の言葉が小さく消えていく。
それを言ったらきっと俺だって。ジュリオの不在の悲しみと苦しみをわかってくれる仲間に甘えて。
あまつさえベルナルドがこうしたいからさせてやっているという風にして、自分の寂しさを紛らわせているのだから。
なあ、もしこのままベルナルドとヤっちまったらこの寂しさも喪失感も少しは紛れるんだろうか。
そんなことはないことわかっているくせに聞きたくなるんだ。どうしようもない馬鹿であることは変わってない。
きっとこの先ボスになったって変わることなんて出来ない。
俺は、ベルナルドの背中に腕を回す。これ以上ないくらいの力で抱きしめたら、同じくらい、いやそれ以上の力で抱きしめ返された。
これが生きている人間の力強さなんだと思ったら。
涙を止めることなんて出来なかった。

end
作品名:傷の舐めあいではないと1 作家名:しの