完結した園にて
朗らかに笑う黒ずくめは誘う。情報を扱い人々を先導してみないかと。金髪で長身は言う。揺るがない盾と矛は要るかと。同世代の同性はこう切り出す。信頼出来る唯一無二の親友を選ぶかと。年下であることを差し引いてもとても幼い作りの顔をしたこは申し出る。直向きに忠実な賢い部下は如何ですかと。それこそ幾度だって。
果たして、自分は生来目に鮮やかなものを好みとしていた。
護衛対象には、危機的状況に陥った際は必ずや此方を頼るようにと刷り込まなければならない。これは幾ばかの経験から身に付いたものの一つである。それは次元の差を所持し、かつ本能を働かせ怯えさせてしまう自分には容易でないのだが、幸いこの度の長期護衛対象はめでたくも初対面で懐いてくれた。逆に理由のないことに多少の不安を憶えるけれども、取り敢えずよしとして置いて。兎にも角にも、この瞬間が大切なのだから。
仕事とは思考回路が単純な自分に合わせて簡潔に、何一つ損なわせなければいいことだと設定している。即ち細過ぎて触れるのを思わず躊躇させる身体や、好奇心にくるくると夢中になってはよく回る瞳など、交換のきかないものばかりをただの一つも余さずに守る。そうすれば隣に居るのを、或いは触れるのを許される。成長して声が変わっても、竜ヶ峰家として裏を垣間見ても表向き関係は変化はない。しかし四六時中片時も離れないのだから、やはり想いは芽吹いて育つ。目を細めては小さな頭に手を置き、露見しない筈のない照れ隠しをする。顔を見なくても、仕方のないひとだなあと思われているのを感じていることすら、伝わってしまっているからとてもじゃないが適わない。
夏、かき氷に苺シロップを過多に掛けて汁だくにした際の遣り取りである。氷の温度差からくる凶暴な冷たさに頭を押さえる合間、赤く色付いた舌で訊く。
「竜ヶ峰家の専属になって、悔いてはいませんか?」
沈黙の夏になる。
冬には温い炬燵から動けなり、両足を痺れさせつつの会話がある。蜜柑の皮を中身ごと潰しつつ剥く過程で、柑橘系の香りをさせながら尋ねる。
「俺を選んだ選択に、期待外れはしてないか?」
瞼をおろす冬になる。
不安や疑心暗鬼から生まれた疑問を表に出す。この不毛な行為は、互いを必要とし合うひと達の約束事であった。
時には選択しない選択さえ、毅然と許容してみせよう。こっそり、選択によって形成した今でそう誓う。