発情期ってやつです
飼い犬は飼い主に似るというものか。いや、猫だな。
そんな感じで全然こちらには懐いてくれなかった。
それが、何をどうしてこうなった。
『サイ、ケ?』
普段はツンツンと雰囲気にも棘があるのに対して。
今はそれが全く感じられない。それどころか、逆だ。
柔らかい空気を纏って…、デレている。
【発情期ってやつです】
「サイケ、どうしたんだ?」
腰に抱きついている腕に手を重ねて艶やかな黒髪に指を絡めた。
そうすると気持ち良いのか猫のようにすりすりと顔をすり寄せてきた。
そしていつもならありえない程の甘えた声音で。
ぎゅう、と腕の力と一緒に強く抱きつかれて。
「…なんか今日は、津軽と、」
一緒にいたい、なんて言われてしまえば最後。
ぷつんと何かが切れる音がしっかりと聞こえて。
気づいたら彼女を押し倒していた。
それなのに嫌がる素振りを見せるどころか驚きさえもしない。
とくに気にした様子もせずに自分の視線を真っ向から受けている。
「嫌じゃないのか」
「別に、嫌じゃない」
それから首に腕を巻きつかれてそのままグッと引き寄せられた。
耳元に彼女の吐息がかかるとそこに唇があるのだと理解する。
「なんか、今日、変なの」
そして、何故だか分からないが分かってしまう。
これから彼女が何を言おうとしているか。
これから彼女が何をしようとしているのか。
だけれど、一応聞いてみることにする。
「変って何が?」
「体の奥がむずむずして、疼いてる」
息と共に吹き込まれた言葉に、何か色めいたものが混じっていることに気がついた。
そして気がついたら最後。今度は彼女の熱の込もった視線が自分を射貫いて囁く。
「ね、津軽を頂戴?」
猫のように自由な彼女はいつでも気まぐれで。
けれど、そんな彼女に付き合ってしまう自分もやはり。
彼女を求めているのだろう。
fin.