夏の思い出
「ねぇ、間違えなかった?俺苺のしかだめなんだけど。」
「あ?間違えてねぇよ。それよりちょっと寄れ。暑苦しい。」
「やだよ。シズちゃん向かいすわれば。」
あっち、と俺は指さす。向かいの、とても遠い席を。シズちゃんはしばらく沈黙を守って、そして体を引きずるように指定された席におちつく。
シズちゃんはそこに座って、アイスを食べている。
「この前のノートのお礼のつもり、だったっけ?」
「あれで進級できたからな。」
「ふーん、律儀なんだ。」
そういってまた目線を向ける。俺が、見ろよ。といって叩きつけたノートを、そもそもこいつが見ていたことに驚きだし、それで礼とか気持ち悪い吐き気がする。
「アイス、お金はらうからさ、こういう気持ち悪いことやめろよ。」
小銭をたたきつける。静雄はちら、と目を向けて、うけとろうとはしない。
「お前こそ、気持ちわりぃだろーが。俺に進級してほしいとかやめろ。」
「そんなこといってないし。勘違いすんなよ。」
ぎろ、とにらむ。不機嫌な夏、沸点も低いが、体力もほどほどに低下していて、お互い喧嘩には発展せずここで口論になるのがわかっている。手は、出さない。
俺がにらむと、シズちゃんのほうもこちらをみていた。だからしばらくにらみ合うことになったが、そこには何か、憎しみというより、いい加減にしてくれ、という願いがあった。チャイムがなったことに気付いて、お互いがため息をつくと、先に席をたったのはシズちゃんで、俺はその背中を目で追う。妙な感じで、日々すぎていく。おわれ、おわれ、小銭が残っているテーブルが忌々しい。こんな妙なコミュニケーションでは気が狂う。