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月食みの夜に

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――月が影に侵されている。

寝転んだ状態で見上げた月は、影に体を侵食されているからか酷く儚げだった。暗い部屋の中、閉め損ねたカーテンの隙間から零れる月明かりだけが唯一の光源なのに、その光は弱々しく頼りなかった。
まるで今の自分のようだ、と帝人は笑う。この部屋を照らすほどの明かりも出せない、矮小な存在。頭上の月と同じように、心を侵されている。

「ねえ」

耳を吐息が掠めた。気持ち悪さに鳥肌が立つ。帝人は覆いかぶさる影に目を凝らした。影は暗闇の中でも強烈な存在感を放っている。無色を自分の色で侵食しようとしているのだ。

「俺は今まさに君を犯そうとしてるんだけど」

影は帝人も分かっている事実を述べた。その内容は実に下劣だったが、影は頓着しないようだった。ただ、心底疑問だという風に首を傾げ、言った。

「何で抵抗しないの」

帝人もまた、心底意外だというように目を見開く。こうしている間もじわじわと月は影に食われているのだろうか、と頭の隅で思考しながら。

「だって、臨也さん」

帝人は影の名前を呼ぶ。帝人の淡々とした声に、影がわずかにひるんだ。

「抵抗なんてしたら、本当に襲われちゃうじゃないですか」

抵抗すればするほど臨也は喜ぶだろう。帝人の中の臨也はそういう人物であった。
臨也はその言葉に不機嫌になると、帝人の隣に横たわった。襲う気は失せたようだ。

「あのさぁ、俺がしょっちゅう誰かを喜んでレイプしてるみたいな言い方やめてよね。そもそも、俺って別に誰かを襲うほど不自由してないし」
「でしょうね」

月明かりに露になった臨也の顔を見つめ、帝人は肯く。この際、ならば何故自分が先ほど襲われそうになったかは問題視しない。面倒な答えが返ってきそうだったし、何より早く眠ってしまいたいからだ。

「帝人君はさっき何見てたのかな?」

臨也は帝人の心情などお構い無しに尋ねる。いきなり現われ、帝人の睡眠を妨害し、襲ってきた先程と同じように。

「月、ですよ」
「月?へぇ、この部屋から見られるんだ。」
「食べられているように見えて」

影に光が、とは言わなかった。帝人は言った後で後悔した。今の言葉は必要なかった。馬鹿にされるのはいいがつまらない奴だと思われるのは嫌だった。
臨也は帝人と同じように仰向けになると、逆さまの世界に鎮座する月を見上げた。

「三日月、か。襲われそうになってる時に月を見上げるなんて、帝人君って意外とロマンチストだね」

臨也は帝人の愚鈍さを嘲笑する。ロマンチストも何も、現実逃避していただけなのだが。

「――あぁ、でも」

臨也は月から目を離さず、瞳を眇めた。時折道を行き来する音が遠くに聞こえる以外、部屋の中は静寂に満ちていた。月光の降り注ぐ音さえ聞こえそうな程だ。臨也の声だけがはっきりと暗がりに響いた。

「本当に、食べられてるみたいだね。――影が、光に」

帝人は臨也の言葉に驚くと、身を起こして臨也の顔をマジマジと見つめた。臨也は嫌そうに眉をひそめた。

「普通、逆じゃないですか?」
「違うよ、月はこれから満月になっていくんだから、光が影を食べていくんだ。これくらい、小学生でも知ってるよ」

合理的な考えの男だ。帝人は再び仰向けになると、枕に頭を預けて「でもやっぱり僕は逆だと思います」と呟いた。何か反論が来るかと身構えたが、返事はそっけないものだった。

「君がそう思うならそれでいいんじゃない」

大きく伸びをして欠伸をすると、「眠い」と勝手に帝人の布団の中へ入ってきて寝息を立て始めた。自分勝手もここまで来ると清々しい。帝人は気持ち良さそうに眠ってしまった臨也の顔を呆れ半分、諦め半分の表情で見た。帝人は数分臨也を眺めていたが、睡魔には勝てなかったらしく布団に横たわった。
暫らくすると、二人分の寝息が部屋を満たした。

そんな二人を、影に食われ影を食らう――月の光が、包み込んだ。
作品名:月食みの夜に 作家名:RM