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amore a prima vista(仮)

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「捕まえた」
雲雀が並盛の見回りから戻って、ネクタイを解いてふと息を吐いたその瞬間にするりと忍び込んだ影は光り輝く金色の風を起こした。雲雀が振り返る間もなく、背中から羽交い締めにして、汗の浮かぶ喉元を抑える。その鋭い爪先は、雲雀の頸動脈を正確に押さえていた。
「あぁもう眠いから起きてからにして」
急襲されたというのに、伸びた前髪の隙間から見上げる黒い眼は確かに眠そうにぼんやりとしていた。
「そうそうお前の都合にばかり合わせてられるか」
雲雀を抱える男は異国の言葉の筈なのに、雲雀の脳には柔らかな日本語で伝わる。
蠱惑的に笑う唇の端に覗く鋭い牙が光るも意に介せず、雲雀はふにゃっと脱力して背後の怪物に体重を預けた。
「っと!」
黒いマントが広がり急に体重をかけられて、後ろにたたらを踏む。動きを抑えるための両腕は腕の中で眠る雲雀を支えることになっていた。
「あーあ、こんな無防備にされると血を吸う意欲が無くなるんだけど」
湿度の高い夏まっさかりなのに、男の体温は氷のように冷たくて、雲雀は体を反転して彼を抱きしめるように涼をとる。首筋に頬をすりつける仕草はまるで愛撫のようで、金髪の陰に隠れた男の白磁のような頬が赤く染まる。
——ボス、また吸えなかったんですかい。いつになったら男になってくれるんでしょうねぇ。
口さがない部下のぼやきが浮かぶも、こんなにすやすやと寝られてしまってどう襲えばいうのだ。
そう、彼は吸血鬼だった。が、まだ一人としてきちんと血を吸ったことがない。トマトジュースも結構おいしいぜ、とチューチュー吸うディーノに頭を抱える家庭教師は吸えるまで帰ってくるなと根城を蹴り出したのが数ヶ月前。まだ桜の舞う季節だった。仕方なくふらふらと飛んでいたディーノをみつけたのが並盛の守護神雲雀恭弥だった。
「カゴメにイトーエンに」と、トマトジュースのブランドをいくつ言えるかなぁと指折り数えながら飛んでいたディーノの前に、雲雀が飛んできた。
そう文字通り。
正確に言えば、ビルの上から降ってきた。
出会い頭にトンファーを振られるも生来の反射神経で避ける。ニンゲンがいきなり空中に現れて驚いたディーノは思わず雲雀の体を両手で抱きしめる。ふわぁと立ち上る香りに酩酊しかけるも、こんどこそ避けられなかったトンファーで反対へと殴り飛ばされた。
墜落したのは街中の小さな公園だった。
『あなた何?』
『何ってヴァンパイアだけど、おまえこそ誰だよ』
『強いの?』
『は?』
ニンゲンがヴァンパイアを見ると悲鳴を上げて逃げるもんだと教えられていたディーノだったが、予想の斜め上を行く質問に頭を捻る。答える様子が無い、と踏んだ雲雀は一気に間合いを詰めて右腕を振りかぶった。それを片手で受け止める。
『こっちの質問に応えてないだろう?お前こそ何者だ?』
『勝ったら教えてあげるよ』
血の色のように赤い舌でぺろりと唇を舐めた雲雀の方がよっぽどヴァンパイアに見えるとディーノはマントを翻して地を蹴った。ディーノが寄りかかっていた巨木が抉れる。振り返った雲雀は助走も無しにその木を蹴って空中のディーノへと挑んできた。
逃げるばかりじゃ埒があかないと、ディーノは迫り来るトンファーを伸ばした爪先で切った。一瞬だけ、目を見開いた雲雀だったがディーノの腕をかいくぐって反対側からディーノのボディにもう一本のトンファーを叩き込んだ。
「ぐっ…」
それなりの衝撃をなんとか踏みとどまるディーノの襟を雲雀の片手が掴み、思い切り引く。バランスを崩して落下を始める。ディーノは雲雀の両腕を拘束するように抱きしめてマントを翻した。始めからそうすればよかったのだ。下手に間合いがあるから攻撃される。ならば抱きしめればトンファーを出しようが無い。幸いにもヴァンパイアの怪力にはこの小さな生き物も敵わないようだった。
引いた頭部がディーノに頭突きをするその瞬間まではその作戦も有効だった。
耳元で教会の鐘が鳴り響くような衝撃をくらったディーノは学校らしき建物の横の芝生の上にグロッキーに伸びた。その傍らに雲雀はタンと両足で降り立つ。
両腕に治めたときはかよわく小さな生き物だったのに。なんてことをするんだこの子は、とディーノは額を押さえて傍らの生物を見上げる。明け方の紫ばんだ空を背負ったニンゲンを落ち着いて見ると、まだまだ少年の域を出ていなかった。ぷっくらとした頬は瑞々しいのに、似合わない禍々しい殺気と、そして抗いがたい甘い香りとがディーノに届く。
あぁこの子の血が吸いたいなぁ。と、ふと激痛の中に甘い誘惑を見つける。
「貴方、マゾなの?」
ちょっと引いた感じで問われてディーノは「いてぇ…」と頭を振りながら上半身を起こす。
「そんなんじゃねぇよ。お前、いい匂いがするなぁって思っただけだよ」
「更に変態?ヴァンパイアって言ってる時点で変質者だけどね」
「ホントなんだけどなぁ。あー!」
雲雀の肩越しに薔薇色の光が見え始めた。
「ごめん、勝負持ち越し。オレ、朝日浴びると灰になっちまうから、またな!」
と立ち上がろうとするディーノは腰を上げた途中で急に膝をつく。
振り返ると雲雀が不遜な表情で腕を組んでマントを踏みしめていた。
「変質者を逃がすわけないだろう?」
「え、だから、変質者じゃなくて…って」
地球の回転が聞こえそうなぐらい焦るディーノの視界は徐々に朝の光が溢れ始める。雲雀は本当に自分のことをただの変質者だと思っているらしかった。上昇し始める気温につられてディーノの体温が上がり始める。焦げる匂いがし始めた錯覚に心臓が跳ねる。
そこからは無意識だった。
ディーノは雲雀の足ごとマントを力強く引いて雲雀を背後に倒す。仰向けになる前にその体を両腕に抱いて弾丸の如く根城へと飛びすさった。守護神と呼ばれる雲雀の反射神経が追いついたときは既に耳元をごうごうと風が過ぎていっていた。
「わりぃ。少し寝ていて」
甘い口づけを受けた雲雀の意識はすぐにブラックアウトした。

朝日が昇りきる前に山の中腹の根城の地下室に戻ったディーノが子供を抱いていたので獲物を連れてきたと盛り上がる部下達だったが、抱えている顔を見た家庭教師は
「おめー、一番厄介なのを連れてきやがったな。そいつは並盛の守護神と呼ばれている悪ガキ、雲雀恭弥だぞ」
とふかーい溜息をついた。その溜息の意味よりもヒバリキョーヤという名前を何回も口の中で転がすディーノはまるで初恋をみつけた少女のように上気していた。その姿を見て、家庭教師は空を仰いで信じていないくせに十字を切った。

目覚めた雲雀が根城を滅茶苦茶にした挙げ句、ディーノと果てのない戦いを始めるのはそれからすぐの話。
『負けたら血を吸ってもいいよ』という雲雀からの約束がありながら、いざとなると及び腰になる吸血鬼の躊躇いも含めて全部、最早子孫繁栄なんて単語を諦めた部下達の賭け事から外れた。今は、いつ雲雀がディーノを襲うかということが彼等の焦点になっていた。
連戦連敗を楽しむ吸血鬼ディーノと吸血鬼になったら今以上に強くなれるのにな、と思っている並盛守護神雲雀のどこかズレている話は始まったばかり。
作品名:amore a prima vista(仮) 作家名:だい。